えほんのいずみ

絵本「あずきとぎ」のあらすじや随想

 この絵本について―川の深みに招ばれる怖さ

作:京極夏彦

絵:町田尚子

編:東 雅夫

出版社:岩崎書店

出版社の対象とする読者年齢:小学校高学年~ 

出版年月日:2015年3月20日

定価:1,650円(本体 1,500 円)

 
 はじめに


   本書は京極夏彦さんの「京極夏彦の妖怪えほん」シリーズ全5巻のうちの一冊です。

   シリーズ監修者東雅夫さんによれば「妖怪とは、本来、日本の風土と文化、その土地

   で暮らす人々の喜怒哀楽や心が生みだしたもの」と考えられるとのこと。

   この絵本は、作家・京極さんの洗練された言葉の紡ぎ出すストーリィ。画家・町田さ

   んの不思議な透明感に満ちた美しく写実的な画。目に見えない怖さを知っている人ほ

   どひきこまれる怪異の作品かもしれません。

   
   
 あらすじと随想


   主人公は表紙絵の男の子。

   夏休みを、田舎のおじいちゃんの家で過ごすことになりました。

   祖父の家の周りには山があり、木や草が茂り、うっそうとした緑に囲まれています。

   白い犬や猫も飼っているようでした。

   辺りはしーんとして静かですが、絶えまなく響く蝉しぐれ。

   それに水の澄んだ川があるのです!魚がいるのかとても気になり、次の日、川へ行っ

   てみました。

   すると、祖父の家のそばでも聞いたショキショキショキという音。

   不思議に思い、夜、祖父に訊いてみると、“それは、あずきとぎ”。小豆を洗う音を

   させるおばけだそうです。

   その音がすると、すべって川の淵に落ちるのだといいます。

   
   「淵に落ちたらおぼれ死んでしまうから、行っちゃだめだよ」と祖父は言いました。

   すると男の子は、“川は危ないから、そんな迷信があるんだね。だって、おばけなん

   ていないでしょ”と返しました。

   彼は『おばけなんかいないさ。気をつけていれば平気さ』と思ったのです。

   そして川へ行ってみると、澄んだ水の中には魚がいっぱい!

   すごい、すごい!彼は思わず水の中へ入って行きました。

   すると、またショキショキショキという音・・・・・・。

   それからのすべてを見ていたのは、おじいちゃんちの白い犬とトンボだけでした。

   
   
 随想とまとめ


   小豆を洗うには、かつては竹の(ざる) でおこなったそうです。


   

   『怪異の民俗学2 妖怪』(小松和彦責任編集 河出書房新社刊)によると、「小豆洗

   い」「小豆とぎ」の怪談は各地に在り、妖怪の正体も小豆婆さまだったり、狐や狸、

   貉などの動物、お寺に出る化けもの、夜に川で小豆を洗う音の化けもの、その他さま

   ざまなタイプがあるようです。

   では、なぜ米や大豆、粟、稗などではなく、小豆をとぐ音が怪異譚として伝播伝承さ

   れたかというと、おそらくは小豆が、まじないに使われたからではないかという見解

   があります。

   また、あずきの洗い方を咎められた嫁いびりにまつわる小豆とぎ譚、泣きやまない子

   どもや、夕方外に遊びにいこうとする子どもをおどす小豆とぎ話もあるそうです。

   ところで私にとって、小豆は美味しいおはぎやお赤飯の食材だったので、子どもの頃

   から、台所で祖母が小豆を洗う音を聞くのが好きでした。

   しかし、怖い体験をしたのが、川遊び。

   毎夏、父に連れられて行った多摩川で夢中になって小さな魚を追っていた時、深みに

   すべりこみ溺れかけたことがあったのです。

   本書のおじいちゃんが語るように、川は流れているし深いところもあるので、深みに

   足をとられるとあっという間にひきずり込まれてしまいますが、自分が溺れるとは予

   想もしなかったことでした。

   近くにいた叔父が気づいてくれたので助けてもらえましたが、あの時の怖さは忘れら

   れません。


   

   自然の中で遊ぶ時に、子どもたちは好奇心のブレーキが利かなくなるほど夢中になる

   ことがあるのでしょう。だからこそ、自然に対する意識を変えるのは必要かもしれま

   せん。自然を侮るのは不遜ですし危険でもあるでしょう。大自然に対して畏怖の念を

   持つ意味でも、「あずきとぎ」のような絵本は、怖くておもしろいからこそためにな

   るのかもしれません。


   
   

プロフィール

ネッカおばあちゃん

カテゴリー

  ねこ   クリスマス

クリスマス絵本一覧

COPYRIGHT © えほんのいずみ ALL RIGHTS RESERVED.

▲ ページの先頭へ