作・絵：ブリッタ・テッケントラップ
訳：三原 泉
出版社：BL出版
出版社の対象とする読者年齢：4・5歳～
出版年月日：2019年2月1日
定価：1,650円(本体1,500円)
本書は、作者ブリッタ・テッケントラップさんの絵がファンタスティックでこのうえ
なく可愛い絵本です。物語に込められた寛容と許しの深さに、多くの読者の皆さんが
心ぬくもることでしょう。
作者の他の邦訳絵本には、『おなじそらのしたで』（ひさかたチャイルド社）『いの
ちの木』（ポプラ社）『かべのむこうになにがある？』（BL出版）などもあります。
主人公は表紙絵のもぐらです。
彼は住み心地の良い土の中で暮らしていました。
でもちょっぴりさびしくなることがあり、夜になると外に出て、お気に入りの石に腰
かけ、美しい星空を眺めたのです。
ある晩、流れ星が見えたので、“世界中の星が、ぼくのものになりますように！”と
願いごとをしました。
すると、不思議なはしごが空に向かってたくさん現われたのです。
もぐらは嬉しくなって、夢中ではしごに登ると、空の星をとって一つひとつ土の中の
家へ運びました。
そして、その晩からは明るくて美しい星明かりに包まれて眠ったのです。
ところが、気がつくと、外はどこもかしこも真っ暗。
広場にはたくさんの動物たちが集まって、涙さえ浮かべながら、夜空に星のないこと
を嘆いていたのです。
もぐらはそれを見て、星が自分だけのものではないことに気づきました。そして皆、
星が大好きであり、皆にとって大切なものだとわかった時、思わず森の奥に隠れたの
です。水たまりには、あの願いごとを聞き届けてくれたらしい、弱々しく光る星が落
ちていました。
もぐらは、心から“あんな願いごとをしなければ良かった”と後悔しました。
すると、星の光は増し、再び不思議なはしごが・・・。
もぐらは、その光を頼りに広場へ行き、“ごめん、ぼくのせいなんだ・・。これから
星をみんな空に帰すよ”と動物たちに謝りました。
すると、みんなは・・。
その後の感動的なフィナーレは、是非絵本でご覧ください。
空の星を全部自分のものにしたい・・という主人公の思いがけない願いごとから出発
した、作者テッケントラップさんの想像力と画力がみごとです。
本書は、魅力的な美しい絵からも、ストーリィの流れが読みとれますが、特に、もぐ
らが空の星を集め、まばゆい星明かりに包まれて過ごす夜の部屋の美しさは圧巻で
す。それは、他の皆が星を必要としていることに気づかない、無邪気で身勝手な独占
の喜びでもあるのでしょう。
しかし、星が大好きなのは自分だけではなく、星がなくなったら困る人が大勢いると
気づいた主人公。
その後悔・反省・謝罪という素直な思いとまっすぐな行動は、子どもならではの無垢
の証なのかもしれませんが、多くの読者の皆さんが、年齢を問わずに胸を打たれるの
ではないでしょうか。
特に、謝罪することは、子どもにとってもおとなにとってもなかなかむずかしいもの
です。
どうでもいいようなことは謝れても、本当に謝るべきことほど尻込みしてなかなか謝
れない場合があります。誰よりも、自分自身が自責に捕らわれてしまうせいかもしれ
ません。
しかしもぐらは勇気を出して、大変な間違いをしてしまったと皆に謝り、星を空に帰
そうとしたのです。その一途な
でした。それどころか逆の行為を示したのです。
その、心の洗われるような深い許しには、多くの皆さんの心が温められるでしょう。
土の中で孤独を感じた主人公自身も、やさしい仲間たちと、星の美しさを一緒に味わ
う喜びを知りました。
失敗はかけがえのない学びの糧になります。
主人公の大切な気づきと行動から、感動をもらえる絵本ですので、幼児さんや小学生
への読み語りにも喜ばれる作品でしょう。
集団で読んだ後、ひとりで絵本を丁寧に見直す子どもたちがいるほど、作者の絵は美
しく、読者を魅了してやみません。
