えほんのいずみ

絵本「アナベルとふしぎなけいと」のあらすじや随想

 この絵本について―編み物で町中を明るくした少女

作:マック・バーネット

絵:ジョン・クラッセン

訳:なかがわちひろ

出版社:あすなろ書房

出版社の対象とする読者年齢:5歳~

出版年月:2012年9月

定価:1,430円 (本体価格 1,300円)

 
 はじめに


   主人公の心あたたまる編み物が魅力的な絵本です。

   本の色調が明るく変化するのが美しく、思いがけない展開にドキドキするでしょう。

   本書は、2012年ボストングローブ・ホーンブック賞(絵本部)、2013年コルデコッ

   ト賞を受賞。

   本書の作者マック・バーネット氏と画家ジョン・クラッセン氏のコンビで邦訳されて

   いる絵本は、他に『マンマルさん』『サンカクさん』『シカクさん』(以上クレヨン

   ハウス)

   『おおかみのおなかのなかで』(徳間書店)『サムとデイブ、あなをほる』( あすな

   ろ書房)などもあります。

   
   
 あらすじと随想


   主人公の少女アナベルが住んでいるのは、真っ白な雪と煙突から出る黒いすすの漂う

   薄暗い町。住人たちも皆、暗い色の服を着ていました

   ある日、彼女は不思議な箱を拾います。

   それは、色とりどりの毛糸がたくさん入っている箱。

   アナベルはうれしくなって、その毛糸で早速、自分の明るい色のセーターと愛犬の

   セーターを編みました。

   でも、まだ毛糸は残っています。


   

   ところが、彼女のセーターを見て“ばかみたい”と笑う子もいれば、“セーターが目

   立ちすぎて授業にならないよ”と批判する学校の先生もいました。

   それに対して彼女はひるまずに、“わたしのセーターが目立たなくなるように、皆に

   もセーターを編んで上げます“と言い、先生にもクラスの皆にもセーターを編んで上

   げたのです。

   こうして町中の人や動物へのセーターを編み終えると、今度は町の建物まで編み物で

   おおいました。すると、町の景色はモノトーンからパステルカラーへとどんどん明る

   くなっていったのです。

   それでもまだ、毛糸はなくなりませんでした。


   

   やがて、アナベルの不思議な毛糸の話は外国にも伝わり、おしゃれで有名な王子が、

   彼女の不思議な箱を高額で買い取りたいと来訪しました。

   ところが、彼女がきっぱりと断ったので、王子は立腹し、どろぼうを雇って箱を盗ま

   せたのです。

   しかし、その箱を開けてみると中身はからっぽ。

   すると怒り狂った王子は箱を投げ捨て、何とアナベルが不幸になるようにと呪いをか

   けたのです。

   その後彼女がどうなったか、フィナーレは是非絵本でご覧ください。


   
   
 随想とまとめ


   私も編み物が好きで、以前はマフラーやセーターをよく編みました。でも最近は肩が

   凝り目も疲れるので、編み物はしません。その代わりに本書のようなすてきな編み物

   の絵本からぬくもりをもらっています。


                 

   この絵本の原題は“EXTRA YARN”。すなわち“特別な毛糸”ですが、主人公が精神的に

   自立していて、王子さまとのハッピーエンドに向かわないところが面白いですね。


   

   不思議な箱は、毛糸を生かすことのできる人と出会ってこそ、力を発揮します。

   ですから、私利私欲に満ちた王子の手に渡っても、箱はからっぽ。毛糸もありません

   でした。

   しかし、アナベルのように編み物が好きで、喜んで人や動物や町のために惜しみなく

   編み物をする人にこそ、箱も惜しみなく毛糸をプレゼントし続けたのではないでしょ

   うか。


   

   アナベルの手で編まれるセーターや帽子の色合いの美しさ、あたたかさ!

   それだけでなく、彼女のカラフルなセーターをうらやみ、心ない言葉で批判したり

   揶揄やゆしたりする周囲の人に対して、毅然としたぬくもりの言葉で返答する彼

   女の姿勢は、読者に勇気を与えてくれるのではないでしょうか。

   何よりアナベルにとっては、不思議な毛糸に出会い、大好きな編み物を見出したこと

   が、尽きない喜びと幸せの道しるべになったでしょう。

   願わくば、箱にもカバーを編んであげてほしいような気がします。


   

   本書は、年齢を問わず多くの読者の皆さんが、不思議な毛糸とアナベルとのなりゆき

   をドキドキしながら楽しめる絵本でしょう。

   どこかユーモラスなジョン・クラッセン氏の絵が、作品全体をふんわりと包み込んで

   いるのも大きな魅力に違いありません。

   この物語は、美しい毛糸の色や風合いを表現できる、「絵本」という媒体だからこ

   そ、その魅力を存分に発揮できる作品でしょう。


   
   

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