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絵本「聖なる夜」のあらすじや随想

 この絵本について―神の愛に包まれた夜

作:セルマ・ラーゲルレーブ

絵:イロン・ヴィークランド

訳:うらた あつこ

出版社:ラトルズ

出版年月日:2007年11月13日

定価:2,068円 (本体価格 1,880円)

 
 はじめに


   本書は、『ニルスのふしぎな旅』の作者であり、スウェーデン人として初めてノーベ

   ル文学賞を受けたセルマ・ラーゲルレーブさんの原作です。彼女自身が幼い頃大好き

   だった、おばあちゃんに話してもらった口承のクリスマス物語ということで、「キリ

   スト伝説集」にも収められています。

   画家ヴィークランドさんによる絵が、このうえなく美しい青の色調であり、登場人物

   たちの豊かな心情表現も、読者の皆さんの心を深くとらえてやまないでしょう

   
   
 あらすじと随想


   昔、ある冬の真夜中、男の人が火を分けてほしいと家々を訪ね歩きました。

   「妻が赤ん坊を産んだので、火をおこして温めてやりたいのです」とドアを叩きまし

   たが、誰も起きません。

   そこで、遠くの原っぱで火をたきながら羊の番をしている、年老いた羊飼いのところ

   へ行ったのです。

   すると羊飼いの足元にいた獰猛(どうもう)な番犬たちが、たちまち彼に襲いかかりま

   したが、不思議なことに男の人はかすり傷一つ負わず、体を寄せ合って寝ている羊の

   上を歩いて火のそばまで行きました。

   それでも羊たちは眠ったまま身動き一つしなかったのです。

   信じられない光景を見た気むずかし屋の羊飼いは、男の人に向かって、いきなり先の

   とがった長い杖を投げつけました。

   ところが、杖までも彼をよけて遠くへ飛んで行きました。

   この度重なる不思議な出来事を目の当たりにした羊飼いは、彼を恐れ、「すきなだ

   け、もっていけ」と言いました。どうせ素手で火をつかむことなどできない、という

   意地悪な思いがあったのです。

   ところが、男の人は果物でも取るかのように火種を素手でつかんでマントにくるみ、

   やけど一つしませんでした。

   さすがの羊飼いも、“今夜はなにか特別な夜なのかね。何もかもが、おまえさんにや

   さしくするじゃないか”といぶかって、火をもらいに来た不思議な男の後について行

   きました。

   

   すると彼が入って行ったのは、岩に囲まれた洞穴でした。火の気のない冷えきった石

   の上に、妻と生まれたばかりの赤ん坊がいたのです。それを見た羊飼いは思わず、こ

   のままでは赤ん坊が死んでしまう、何とかしてこの子を助けたいという慈悲の思いで

   いっぱいになりました。

   とっさに、持っていた温かな羊の毛皮を差し出し“この上に赤ん坊をねかせてやって

   くれ”と言ったのです。

   すると急に羊飼いの霊の目が開いて、それまで見えなかった美しい天使の群れが見

   え、それまで聞こえなかった賛美歌が高らかに聞こえてきました。その晩は神の御子

   イエス・キリストがお生まれになった喜びに包まれ、誰もが悪いことをする気になれ

   なかったのです。

   羊飼いは霊の目が開いたことを喜び、ひざまずいて神さまに感謝しました。


   
   
 随想とまとめ


   恐れと孤独感に満ちた羊飼いが、神さまとその愛を知るくだりは、本当に感動的で

   す。羊飼いの目が開かれるきっかけを生んだのは、生まれたばかりの赤ちゃんであ

   り、弱くて小さな存在でした。


   

   ところで、ある特別養護老人ホームで、寝たきりのご婦人が、併設されたおもちゃ美

   術館に来る赤ちゃんを見るために体を起こし、「これであの子にチャンチャンコを

   買ってあげて!」とお金を差し出されたという話を聞いたことがあります。

   このように赤ちゃんは、人を幸せな気持ちにするばかりでなく、私たちの内にある、

   人の役に立ちたいという慈愛を引き出す特別な存在のようです。

   ですからイエス・キリストが、人の心に愛を与える赤ちゃんとして降誕された意味の

   大きさも、改めてこのお話からうかがえます。


   

   ところで、ラーゲルレーヴのおばあちゃんは、この話を語り終えると、幼い孫娘に

   言ったそうです。“羊飼いが見たものを、わたしたちも見ることができるのだよ。見

   る目があれば、神さまのすばらしさを見ることがね。”と。

   この孤独な羊飼いが、どんなときも共にいてくださる神さまを知ったクリスマス物語

   は、おばあちゃんに語ってもらったように温かく心にしみます。


   
   

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