えほんのいずみ

絵本「赤い目のドラゴン」のあらすじや随想

 この絵本について―かわいい子の旅立ち

作:アストリッド・リンドグレーン

絵:イロン・ヴィークランド

訳:ヤンソン・由美子

出版社:岩波書店

出版社の対象とする読者年齢:幼児、小学1・2年生~

出版年月日:1986年12月1日

定価:1,540円(本体1,400円)

 
 はじめに


   本書は、ロングセラー『長くつ下のピッピ』シリーズや『やかまし村の子どもたち』

   シリーズなどを初めとする数多くの作品で子どもたちを楽しい想像の世界のとりこ

   にした、スウェーデンの児童文学作家アストリッド・リンドグレーンさんの名作絵本

   です。この美しくせつなく希望あふれる絵本は、画家ヴィークランドさんの絵があっ

   てこそ、読者の心の奥までしみ入る珠玉の作品といえるでしょう。

   登場人物の愛情や心の動きのみでなく、北欧の空気まで伝わるすばらしい絵本です。

   
   
 あらすじと随想


   主人公は「わたし」。

   表紙に描かれた少女のまなざしから、「わたし」の愛情の深さが伝わってきます。


   

   さて、わたしが小さかったころ、ある年の四月に、うちの豚小屋の片隅で、十匹の赤

   ちゃん豚と一緒に、赤い目の小さなドラゴンが生まれました。

   わたしも弟もびっくりしましたが、なぜやって来たのかはだれにもわかりません。

   でも、お母さん豚がドラゴンにおっぱいをあげるのを嫌がったので、わたしたちは雨

   の日も風の日も、ドラゴンの餌になるろうそくや紐のごちそうを持って、毎日、豚小

   屋へ行きました。

 
   

   こぶたたちに餌を盗られそうになるとドラゴンは怒って彼らにかみつきました。

   でもこの小さなかわいいドラゴンをわたしたちは大好きで、せなかをくすぐってあげ

   ると、うれしそうに目を真っ赤にして喜んだものです。


   

   時々すごく不機嫌になり、小屋の隅ですねて、呼んでも何日も聞こえないふりをする

   ことがありました。

   そんな時、弟が“ふてくされやのドラゴン、もうおまえにはろうそくの残りだってあ

   げないよ!”というと、小さなドラゴンは、涙を流して泣きました。

   かわいそうになって、わたしが“泣かないで。本気で言ったんじゃないのよ。クリス

   マスのろうそくをほしいだけあげるからね”と慰めると、泣くのをやめて静かに笑い

   ながらしっぽをふるのでした。


   

   十月二日のことをわたしは今でも忘れません。

   冷たい空気に包まれた夕日に染まる牧場で、わたしたちがいつものように動物たちに

   運動をさせていると、ドラゴンが目に涙をためて、急に冷たい鼻先をわたしの頬にす

   りつけてきたのです。まるで「ありがとう」と「さよなら」を言うかのように。

   それから彼は、美しい夕日に向かって生まれて初めて飛んで行きました。やがて姿が

   見えなくなったはるか彼方から、澄みきったきれいなドラゴンの歌が聞こえてきたの

   です。

   それはとても幸せそうな歌声でした。

   その晩わたしは・・。


   
   
 随想とまとめ

 

   本書は、リンドグレーンさんのみごとな原作もさることながら、ヤンソン・由美子さ

   んの名訳が、北欧の美しい透明感をあますところなく私たちに伝えてくれます。


   

   ところでストーリィには、おとなが登場しない分、実生活ではまだ子どもの、わたし

   と弟が親代わりになってドラゴンの赤ちゃんに愛情を注ぎ、その成長を見守る様子が

   温かくクローズアップされています。

   お母さん豚に愛されなかったドラゴンが、安心してわたしたちに甘えたりすねたり、

   泣いたり、自信を見せたりする細やかな気持ちの動きは、「子ども」の心そのもので

   すし、わたしが「お母さん」になって温かい言葉をかけ、ドラゴンとの愛着関係を築

   いていく場面は心にしみることでしょう。

   しかし、おとなの心の中にも、小さなドラゴンのように甘えたりすねたりする気持ち

   は潜んでいますので、お母さん的主人公の言葉に妙に慰めを感じることもある気がし

   ます。


   

   いずれにしても、本書では、ドラゴンという「子ども」の気持ちと、わたしという

   「母親」の気持ちの両方に共感できるため、おとなの読者の皆さんにとっては胸のつ

   まる場面がいくつかあるのではないでしょうか。

   特にドラゴンが空へ飛び立つ自立のフィナーレは、母親役の「わたし」にとって思い

   がけない子別れの場面ですので、子の成長への喜びと同時に、さびしさもつのるで

   しょう。

   しかし、読者の子どもたちにとっては、最高に嬉しい場面のようです。


   

   北欧を舞台とした春から秋にかけてのこの美しい半年間の物語は、子どもたちだけで

   はなくおとなの皆さんにとっても、いつまでも心に残る郷愁に満ちたファンタス

   ティックな絵本ではないでしょうか。


   
   

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