えほんのいずみ

絵本「だんろのまえで」のあらすじや随想

 この絵本について―心が元気になる絵本―

出版社による対象年齢:3・4歳〜

作・絵:鈴木まもる

出版社:教育画劇

定価:1,210円(本体1,100円)

 はじめに


   本書は、3・4歳くらいから楽しむことができると思いますが、思春期の読者さん

   にとっても、おとなの読者さんにとっても、心のゆとりを取り戻したり、深い休息

   が味わえたりする作品ではないでしょうか。

   豊かなメッセージ性のある絵本です。


 あらすじ


   ある日、主人公の「ぼく」は、吹雪の山の中で道に迷ってしまいました。

   この「ぼく」という子どもの体験する吹雪の場面は、すべて道に迷った人の心象風

   景のように思えます。



   雪が降りしきる中、寒くて疲れ、行き暮れていると、一本の大きな木の幹にドアを

   見つけました。

   思わずその戸を開けてみると、中は真っ暗。

   すると、奥の方から「さむいからドアをしめて、こっちにおいで」という声が聞こ

   えました。そして、ドアの横のろうそくが示されます。

   ぼくは、マッチをすって、ろうそくに火を灯しました。

   ゆらめくろうそくを持って、歩いていくと、だんろには赤々と薪が燃えていたので

   す。

   うさぎが「ここにすわってあたたまりなよ」と言いました。

   「ありがとう」と答えて、大きなだんろの前にすわると、火のぬくもりに包まれま

   した。



   暗がりには、うさぎや猫やたくさんの動物たちが身を寄せ合い、だんろの火に暖

   まって寝ています。

   私たち読者も一緒に、ぬくもりに包まれるようです。

   動物たちを見るだけで、幼児さんはうれしくなります。



   その時、うさぎが火を見ながら言いました。

   「つかれたらやすめばいいんだ、むりしないでじっとしていれば げんきになるさ」

   うさぎは、ただじっと火を見ていました。

   ぼくもただ火を見ているだけなのに、気持ちが安らいできたのです。



   後ろにいる動物にそっとよりかかると、毛の暖かさが伝わってきました。

   猫が手をのばして、ぼくに触ってきました。

   あったかくて、とってもいい気持ちです。

   不安がとけて、なんと安心していられる場所なのでしょう!



   「ぼくは ここがすきだよ」と、うさぎに言うと、

   「すきになるのがいちばんさ。すきなことがあれば どんなときでもだいじょうぶ」

   と小さな声で答えてくれました。

   ぼくは、いつの間にか、眠ってしまったようです。



   朝、目が覚めると、窓からおひさまの光が射しこんでいました。

   「みんな、ありがとう。ぼく いくね」と言うと、うさぎが、最高にうれしいことば

   を返してくれました・・・。



   ぼくは光の中へかけだしました。



 随想とまとめ


   迷子になった時、思いがけずに心地良い居場所が与えられた安心感が、この絵本に

   はあります。

   最初はお先真っ暗に見えても、小さな援護がきっかけで、一歩踏み出せることもあ

   るのです。

   そして、心ゆくまでだんろの火にぬくもり、その火を見ていられる幸せ!



   実際、ろうそくの火やだんろの火のゆらゆら揺らぐ波形には、「1/fゆらぎ」のリズ

   ムが含まれているようです。物理学者の武者利光氏によれば、1/fゆらぎとは、音や

   光、振動などに含まれる特別なリズムのこと。たとえば蛍の光や木漏れ日、小川の

   せせらぎなどにも、1/fゆらぎがあります。

   人間は五感を通して外界からこの1/fゆらぎを感知すると、リラックス時の脳波であ

   るα波が増え、リラクゼーションの効果がもたらされたり、活力が得られたりする

   そうです。だから、ただぼんやりと火を見つめているだけで、心が安らぐのでしょ

   う。



   この絵本そのものに、深い受容性が感じられます。

   出会った人や友だちに、ありのままの自分を受け容れてもらえるうれしさ。

   そして、ありのままの自分を「それでいい」と自分自身で受け容れられる安心感

   に、思わず深呼吸したくなります。

   うさぎが言うように、好きなものがあるのはすてきです。

   仮に今は何も好きなものがなくても、焦ることはないのです。

   カウンセリングを受けたような心地良さが感じられる絵本です。

   読み終わると、心にエネルギーがもらえると思います。

   生きていくうえでは、頑張れる時もあるし、疲れて、もう何もしたくない時、休み

   たい時もあるでしょう。

   相性の合わない親戚ともつきあわなければならない、しがらみだってあります。

   心が疲れた時、自己肯定感がほしい時などに読むと、ほっとする絵本だと思いま

   す。日々忙しい人にプレゼントしても、喜ばれるかもしれません。



   幼児さんにとって本書は、主人公に一体化し、不安な夜でも、暖かいだんろの前で

   守られて過ごし、やがて朝の光を迎える追体験が、深い安心感をもたらしてくれる

   でしょう。

   おやすみなさいの絵本としても使えると思います。

   赤々と燃えるだんろの前に、仲間たちと集い、限りないぬくもりに包まれる臨場感

   が味わえます。

   比較的小型の絵本なので持ち運びしやすく、親しみやすい図柄の大きな絵と、温か

   いうさぎの言葉が、多くの読者さんの心に、消えることのない火を灯してくれるで

   しょう。



   作者の鈴木まもるさんは、鳥の巣研究家としても知られています。

   大いなる鳥の登場する癒やしの絵本、いのちをめぐる感動的な作品として『いのち

   のふね』(講談社)なども挙げられるでしょう。



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