
寒い北の国のクリスマス・イブのお話です。
サンタ・クロースにとっては、大切なお仕事の日です。サンタさんのかいがいしい
奥さんはサンタさんに、ちゃんと夜食のお弁当まで作ってくれました。ハムとピクル
スとチーズのサンドイッチ。3切れのクリスマスケーキに、あつあつのコーヒーま
で入っています。
そして奥さんは、サンタさんが失敗しなくて済むように、こまごまと注意もしまし
た。
ところが出発したサンタクロースは、トナカイたちの鈴の音を聞いているうちに、プ
レゼントを届ける最初の家の前で、もう睡魔に襲われてしまったのです。その眠気を
はらうためにコーヒーを一杯飲もうと、森のはずれにそりを止めました。
しかし、コーヒーを飲んだ後、お弁当の匂いを嗅いだものだから、もう我慢できま
せん。おなかがいっぱいになったサンタさんのまぶたは重~くなり、ついにブナの木
の幹に寄りかかって、眠ってしまいました。クリスマス・イブまで、ずっとプレゼン
トのおもちゃ作りで忙しく、寝不足だったのです。
子ども読者の皆さんは、「ねえ、このあと、どうなるの?」と、ドキドキの表情にな
ります。絵本の世界に夢中になっていると、自分のところには、プレゼントが届か
ないかもしれないと、不安になる子もいるようです。
ところが、森ですやすや眠っているサンタさんを見つけたのは、キツネでした。
クリスマス・イブだというのに、トナカイのそりには、届けるプレゼントがいっぱい
積まれたまま、置いてあります。
“かわいそうに、サンタさん、疲れているんだな。でも、このままだと、クリスマス
のプレゼントは今夜、届かないぞ・・・”
キツネは心配になって、森の仲間たちに隈なく声をかけました。そして、眠っている
サンタさんを起こさずに、手分けして、クリスマスプレゼントを届けようと相談した
のです。
皆が喜んで協力し合ったお蔭で、プレゼントはどの家にもちゃんと配達されました。
しかし、クリスマスの朝、目を覚ましたサンタさんは、自分のしでかした失敗に驚
いて、まっさおになりました。
そのとき、そりの近くの雪の上に残されたメッセージに気づいたのです。それは、森
の皆からの愛にあふれる言葉でした。
“クリスマスのプレゼントは全部ちゃんとえんとつに届けておきました。
サンタさん、クリスマス、おめでとう。
森のどうぶつたちより
キツネ“
サンタさんは、森の友だちからやさしさをもらって胸がいっぱいになり、雪の上にお
返事を書きました。その感動的なお礼のメッセージは、是非、絵本でご覧ください。
この絵本のタイトルは“THE CHIRISTMAS FOREST”です。
サンタクロースの奥さんの気配りや心遣い、サンタさんの予期せぬ失敗を通して、森の
友だち同士の愛と優しさ、そして絆が描かれている物語です。
だれにとっても楽しみなはずのクリスマス・イブに、サンタさんがプレゼントの配達に
失敗しそうになるところから、絵本は劇的な展開を迎えます。
その時、森の皆は居眠りしているサンタさんを起こさずに、代わりに自分たちが配達役
を買って出ることにしました。それが、サンタクロースへの最高のクリスマス・プレ
ゼントだと考えたからです。
そのことを知ったサンタさんは、思いやりあふれる森の友だちからのプレゼントと
メッセージに、涙しました。雪の上のメッセージの応答は、年齢を超えて、子どもも
大人も心を打たれる場面ではないでしょうか。
『クリスマスの森』というタイトルからも、森全体がクリスマスの愛の象徴となって
いることが感じられます。ブナの木の下で眠っているサンタさんに、そっと毛布をか
けてあげたキツネのぬくもりを、きっと読者の皆さんも実感できることでしょう。
画家デュボアザン氏は、鳥たちがクリスマスプレゼントを届けに夜空を飛び交い、
動物たちが手分けしてプレゼントの配達に奔走する場面を見事に描ききっています。
この友情の場面のすばらしさは、まさにデュボアザン氏の躍動的な表現力の真骨頂
ともいえるでしょう。
本書のタイトルが「森のクリスマス」ではなく「クリスマスの森」と表現されたとこ
ろにも、作者と訳者の深い思いがこめられているのではないでしょうか。
さて、来年のクリスマス、サンタさんから森の友だちへの特別なプレゼントは、
何でしょうか?
一緒にこの絵本を読んだ子どもたちとの話題になるのが楽しみです。