ある晩、女の子モニカは、窓から外を眺めると、お月さまがとても近くに見えまし
た。早速お月さまと遊ぼうと、外へ手を伸ばしましたが、とても月までは手が届き
ません。
だから、「パパ、お月さま とって!」とお願いしました。
するとパパはながーい長いはしごをかついできました。そして、たかーい高い山へ運
んで行ったのです。それから、はしごを山のてっぺんに立て、上へ上へと登って行きま
した。
そしてお月さまに、「娘のモニカがお月さまと遊びたがっているんだ」と伝えた
のです。でも「月を持って帰るには、月は大きすぎるなぁ」と、パパ。
するとお月さまは、「毎晩わたしは少しづつ小さくなるから、ちょうどいい大きさに
なったとき、連れていってくださいな」と答えました。
そこでパパは、お月さまが手に持てるほど小さくなったとき、モニカのところへお月
さまを連れて行ったのです。
何と、うれしいことでしょう。モニカは「パパ、ありがとう!」と大喜びしました。
そしてお月さまを抱きしめたり、高く投げたりして思いきり楽しく遊んだのです。
ところが、日が経つにつれ、お月さまはどんどん小さくなり、ついに消えてしまいま
した。
それから少し経ったある晩のこと、モニカは、また夜空に銀色のお月さまが輝いてい
るのを見つけたのです。やがて、月は毎晩大きく、大きくなって・・・
絵本『パパ、お月さまとって!』の創作の動機は、作者の娘、サースティンさんの幼
い頃の願いだったそうです。彼女は3~4歳の頃、夜空にかかる月を見て、「パパ、
あのお月さまとって!」と言いました。
すると、パパのエリックは、まず月の大きさや月までの距離について説明したようで
す。どんなにお月さまをとってあげたくても、難しい現実があることを伝えたかった
からですが、その時の娘さんには理解できませんでした。
でも、パパは次の日、サースティンのために、「月の本」のラフスケッチをいくつか
描いてあげました。
ところが、彼女は20年以上経ってから、『憂鬱なときに、そのスケッチを見てい
たら、気分がとてもよくなった』と書いて、パパに手紙を送ったのです。そこでエ
リック氏は、たずねてきた出版社の人と相談し、大勢の子どもたちに見てもらえるよう
に、本書を創作することに決めたのでした。
幼い娘の願いを何とか叶えてあげたいというパパの愛情が、20年以上もの時を経て、
実現するとは何と素晴らしいことでしょうか。すでに大人になった娘さんは、パパの
描いてくれたラフスケッチを見て、憂鬱なときでも、その楽しいイマジネーションを
想い描き、癒されたのでしょう。
サースティンさんだけでなく、たくさんの子どもたちにとって、この作品は、パパ
のぬくもりに包まれながら月と遊べる、絵本ならではの想像の世界だと思います。
下記のURL「偕成社 エリック・カール スペシャルサイト」に詳しい記事があり
ますので、是非ご覧になってください。
https://www.kaiseisha.co.jp/special/ericcarle/about/
〇この絵本のしかけについて
さらに本作では、しかけが駆使されています。長いはしごや、高い山、そして満月
が、目と手と言葉の想像力で味わえます。
子どもにとっては、しかけを縦横に開くのにけっこう指の力が要りますが、見るだけ
でなく、しかけを動かしながら読むからこそ、月とパパの愛情の大きさが実感でき
て、面白さも増すのではないでしょうか。
絵本を通して、月の満ち欠けなどの天文学が楽しく学べるのもうれしいことです。
では、次に星をめぐる絵本『おほしさま かいて!』をご紹介しましょう。
『おほしさま かいて!』
作:エリック・カール
翻訳:さの ようこ
出版社:偕成社
対象年齢:5・6歳~
発売日:1992月10月
この作品は、エリック・カールが子どもの頃、ドイツ人のおばあちゃんに教わっ
た星の絵描き歌からヒントを得たそうです。夏休み、エリックが夜寝
ている間にみた、流れ星の夢もストーリィに加わっているということ。
その夢の中では、最もまぶしい流れ星がエリックめがけて落ちてきました。
ところが星と一緒に舞い上がり、痛いどころかぞくぞくといい気持ちだったのです。
さて、この絵本の中では、『おほしさま かいて!』と頼まれた絵描きが、長い時間を
かけて、大きくてすてきな五角形の星を描き上げます。その鮮やかな色彩とすばらしい
コラージュは、エリックならではの星です。
すると今度はその星が、絵描きにおひさまを描くように頼みました。そこで、ぽっか
ぽかのおひさまを描きあげると、おひさまが今度は木を描くように絵描きに頼んだの
です。
こうして、次々に、人間や家、犬、猫、鳥、蝶々が絵描きの筆から生まれ、鮮やかな
色の花々、雲、七色の虹、夜、月も生まれました。
最後に描き上げたのが、とってもすてきな八角形の星でした。その時には、絵描きもか
なり年老いていました。
やがて、絵描きは最後にその星に頼まれ、星と共に旅に出ます。
この絵本は、訳者・さのようこさんが評するように、作品の中で天地創造が成されて
いるのかもしれません。
空の月や星だけでなく、私たち人間も絵描きの筆から生まれるのです。作者エリッ
ク・カールの想像力と色彩感覚が存分に活かされ、命のつながりや創造の喜びを感じ
させてくれます。宇宙と大自然を生きる、命あるものたちが絵描きの筆から誕生する
不思議さは、年齢を問わず多くの読者のみなさんを魅了することでしょう。想像力を刺
激する美しい魔法のようにさえ感じられます。星を描くことを天職とした絵描き。さら
に、絵描きが星と一緒にどこまでも旅していくことは、永遠への死生観を意味して
いるのかもしれません。
ストーリィの最後に、美しく輝く八角形の星!
この絵本では、八角星の一筆描きが図示されているので、思わず描いてみたくなり
ます。