えほんのいずみ

絵本「おおかみのおなかのなかで」のあらすじや随想

 この絵本について―能天気な発想に感動する爆笑絵本 
                                                                           

文:マック・バーネット
 
絵:ジョン・クラッセン

訳:なかがわちひろ
   
出版社:徳間書店
 
出版社による対象年齢:5歳~
  
発売日:2018年12月
  
定価:1870円

                         
 はじめに


   本作は、発想の転換にはもってこいの爆笑絵本です。

   小さなねずみがおおかみに食われる悲劇かと思いきや、とんでもないハプニング!

   大人気の絵本作家マック・バーネットと画家ジョン・クラッセンがタッグを組んだ、

   まさにナンセンス絵本です。このすばらしいコンビの絵本は、当ブログでも他に、

   80『アナベルとふしぎなけいと』をご紹介しています。

   

   さて、『おおかみのおなかのなかで』では、画面のちょっと暗い色調、登場人物たち

   のキョトンとしたまなざしが、かえってリラックス感とユーモアをかもしだすよう

   です。

   おとなの皆さんの気持ちが落ち込んでいるときにも、本作の能天気に救われる

   でしょう。

   
 あらすじと随想

   ある朝、一匹のねずみが、おおかみにパクッと食べられてしまいました。
 
   ところがねずみが、真っ暗なおおかみのおなかの中で“もうおしまいだ”と泣いている

   と、“静かにしてくれよ!眠れないじゃないか”と、怒鳴り声が響いたのです。

   その声の主はだれかと思いきや、パジャマ姿の先住のあひるでした。

   
    
   でも、思いがけないことに、彼はねずみに、朝ごはんの支度をしてくれたのです。
       
   おおかみのおなかの中には、何とテーブルクロスのかかったテーブルに椅子、朝ごはん
   
   のパンやジャムまで、ちゃんと揃っていました。
   
   あひるは言いました。

   「ようこそ わがやへ。
                       
   ぱくっと くわれたけど、

   べつに どうってこと ないし」

   “おおかみのおなかの中って、結構いろいろ手に入るのさ!” 

   あひるの言う通り、おおかみのおなかの部屋は、なかなか快適でした。

   “必要なものがあったら、おおかみに飲み込んでもらえばいい。”

   

   そのうえ、おおかみは無敵なので、これ以上安全な場所はなかったのです。それ

   にあひると一緒なら退屈することもありません。

   

   ところが、そんなある日、森に狩人がやってきました。

   狩人といえば、おおかみの天敵です。
  
   さあ、あひるとねずみは、どうするでしょうか?

   おおかみを置いて逃げるか、それとも、大切な我が家を守るか。

   でも、どうやって?
       
   

   その後、おもしろい予想外な展開が繰り広げられます。 
       
   ユーモラスで平和に満ちた結末を是非ご覧ください。
       
   
       
   
   

 随想とまとめ


   本作の原題は、“THE WOLF THE DUCK THE MOUSE”です。

   「おおかみのおなかのなかで」という恐怖を漂わせるタイトルイメージと、実際のス

   トーリィのギャップが、この絵本の魅力のひとつでしょう。

   翻訳家なかがわさんの言葉のセンスのすばらしいことといったら、このうえありませ

   ん。

   

   まず、おおかみのおなかの中に恐怖はなく、むしろそこは、動物たちが楽しく平和に暮

   らす我が家だったのです。
   
   あひるのセリフの“ようこそ我が家へ。ぱくって食われたけど、別にどうってことな 

   いし”“おおかみのおなかの中って、結構いろいろ手に入るのさ!”という言葉に、

   能天気な安心感があります。

   読者にとっては、おおかみのおなかの中が、心地よいシェア・ハウスであったという 

   ギャップに、まず笑えます。

   そこで食べるすてきな朝ごはん!それ以上に感動的なのは、夕ごはんです。

   あひるとねずみで“おおかみがいつまでも元気でいますように!”と願い、ワインで乾

   杯するのですから、その意外性に笑えます。

   怖いもの見たさで手にした絵本から、こんなにゆかいな安らぎが得られようとは、
                                                                
   驚きです!

   

   そして、狩人の登場する場面では、最初、あんなにおおかみを怖がっていたねずみ
           
   が、“あきらめちゃ、だめ。戦おう。ぼくらのおうちを守るんだ”と言い、凶器 
 
   と化して、おおかみの口から飛び出す場面には、子どもたちもゲラゲラ笑います。  
   
   ハプニングがハプニングを生み、やがて、おおかみがねずみたちに「ありがとう」と

   頭を下げるのです。大団円には、もっと大きな面白さが待っています。

    

   恐怖を予想していたのに、逆に楽しいものであったという現実。まるでジェットコー 

   スターのような発想の転換には、笑うしかありません。この安心につながる発想を知

   ることは、リラックスに満ちた楽しさをもたらしてくれるでしょう。 

    

   グリムの昔話「おおかみと七ひきのこやぎ」やイギリスの昔話「三びきのこぶた」な

   どにも怖いオオカミが登場します。
 
   しかし、そこには、食うか食われるかの戦いがあり、オオカミが負けてしまいます。

   でも、本書には、おおかみに食われたことが、逆におおかみに守られることだったと

    いう、不思議なナンセンスが存在するのです。怖い敵とこんなふうに共存できる物語

   があることを知るのは、きっと人間関係をアサ―ティブにしていくうえでも、役に立つ

   のではないでしょうか。

   

   物語だから大人も笑えるのだろうと言われるかもしれませんが、想像力豊かなナンセ

   ンス絵本だからいいのです。
           
   絵本だからこそ、いつでもだれでも何度でも、繰り返し読めるでしょう。 
 
   シニアの私も、この奇想天外なナンセンス絵本が大好きで、色々な人に読み聞かせ
 
   を頼みました。
  
   そうやって何度も読んでもらうと、お互いに心が和みます。

   笑いながら、楽しみながら、おしゃべりができる、同世代の友だちとの絵本の読み

   合いもいいものです。

プロフィール

ネッカおばあちゃん

カテゴリー

  ねこ   クリスマス

クリスマス絵本一覧

COPYRIGHT © えほんのいずみ ALL RIGHTS RESERVED.

▲ ページの先頭へ