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絵本「海の館のひらめ」(安房直子 絵ぶんこ8)のあらすじや随想

 この絵本について―不思議なひらめが、料理人の幸運を 
           招く絵本
                                                                  

作:安房直子
 
絵:くの まり 

出版社:あすなろ書房 
   
出版社による対象年齢:小学生低学年~

発売日:2024 年8月
     
定価:1650 円

                         
 はじめに


   この絵本は、不思議な力を持つひらめとの出会いに、大きな驚きと喜びがあります。

   主人公の夢の実現を温かくサポートしつつ、現実の大切さを説くひらめの言葉の重み!

   画家くのまりさんの爽やかで力強い場面描写にも、希望が湧くでしょう。
   

 
 あらすじと随想


   主人公の島田しまおは、もうすぐ22歳です。
 
   子どもの頃から料理することも食べることも大好きだったので、一人前の料理人にな

   りたいと、16歳からレストランアカシアで見習いになりました。

    真面目な彼は、後輩さえ嫌がる下働きも、一生懸命やりました。

   ところが、料理学校の卒業証書がないせいか、料理長は彼をばかにして料理に携わら
   
   せてくれません。いつまでたっても調理場で一番下っ端の役たたずといわれました。
  
    
      
   ある時、しまおが落ち込んでいると、だれかが「しんぼう、しんぼう」と声をかけま
    
   す。
   
   声の主は、調理場の流しの下に置かれた「海の館のひらめ」でした。ひらめは、“も

   うすぐ調理されてしまうけれど、自分の骨を大事に残しておいて海に返してくれたら、
                        
   あなたを一人前の料理人として、ひとり立ちさせてあげる“と言ったのです。
 
    
  
   彼はびっくりしましたが、ひらめの言葉を信じ、お客の食事後、お皿に残されたひらめ

   の骨をコップの塩水につけて、だいじに保管しました。

   その夜、ひらめはしまおに、“調理場でのあなたの働きぶりが、気に入った”と言い
 
   ました。“でも、損ばかりしているような人のいるのが、自分には我慢できませんで
 
   ね”と、言ったのです。
 
   そして、まず店を一軒持つように、しまおに勧めました。しかし、わずかな預金しか
 
   ない彼には、夢のような話に思えました。すると、ひらめは、しまおに今の貯金で交
 
   渉すること。さらに「ぼくには、海の館のひらめがついていますから、決して損は 
 
   おかけしません」と伝えるように、教えてくれたのです。
 
   
  
   こうして、伝説の「海の館のひらめ」の紹介で思いがけずにお店が手に入ると、ひら
 
   めは、しまおに毎晩、とびきりおいしい料理のレシピを教えました。匂い立つみごと
 
   な料理のおいしいこと!
 
   頑張り屋のしまおは、昼間はレストランアカシアで黙々と働き、夜は自分のお店で調

   理実習を重ねて、腕を磨いたのです。

   最後にひらめが勧めたのは、お店を出す前に、お嫁さんをもらうことでした。 
 
   喫茶店でピアノを弾く「青いひなげし」のような女性との出会いにも、ひらめのアイ
 
   デアが活かされます。
 
   着々と夢を実現していくしまおの姿にも、読者の皆さんは勇気がもらえるでしょう。

   さて、伝説の「海の館のひらめ」とは、どんな存在だったのでしょうか。
 
   
<随想とまとめ >
   

   この作品は幸運を呼ぶ、「海の館のひらめ」のファンタジーともいえるかもしれませ

   ん。しまおの夢の実現に、ひらめは知恵と行動力を惜しみなく与え、彼を導いてくれ
 
   たのです。

   そして、しまおの結婚が決まるとこう言いました。

   「ひとり立ちしたといっても、まだまだ、たいへんですよ。借金がたくさんあるし、

   自力で店を一軒やってゆくとなると、やはり苦労が、つきまといます。

   でも、正直に、まじめに働いていけば、きっと、きりぬけられます。それでも、どう

   にもならないときは、海の館のひらめのことを思いだしてごらんなさい。わたしは遠

   くでちゃんと、あなたたちを、まもっていますから」

   長年、上司や仲間にバカにされ、何の後ろ盾もなかった彼には、伝説の「海の館のひ

   らめ」の絶大な応援が、どれほど有難かったでしょう。

   しかし、ひらめがしまおに声をかけたのは、彼の誠実な人柄がひらめの信頼に足るも

   のだったからでした。

   

   ラストシーンで、しまお夫妻は、命を閉じたひらめの骨を海へ返しに行きます。

   「何度でも生き返る」と言った「海の館のひらめ」の願いを叶えるためでした。

   青い大海原の小舟から、ひらめの骨に「ありがとう」と呼びかける情景には、

   胸が熱くなるでしょう。

   小さなひらめに全力で敬意と信頼を寄せる、しまおの真摯な姿!
 
   ひらめは、彼に、誠実さと希望を教えてくれる存在でした。
 
   骨は、夢を達成するための大いなる魂を象徴するものかもしれません。
 
   

   安房直子さんの絵本は当ブログでも63「初雪の降る日」、72「雪窓」、91「うさぎの 

   くれたバレエシューズ」、137「ひめりんごの木の下で」、168「はるかぜのたいこ」

   169「みどりのスキップ」などをご紹介しています。

   やさしさと抒情にあふれ、同時に人間の心に潜む不気味な影をも表現する、安房さん

   の奥深い作品世界!

   私自身も、安房さんの不思議なファンタジーに限りなく魅せられる読者の一人です。

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