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絵本「アチケと天のじゃがいも畑」のあらすじや随想

 この絵本について―魔女と子ども達との戦いに、
           ハラハラするペルーの昔話絵本
                                                                           

再話:宇野和美
 
絵:飯野和好

出版社:ビーエル出版
   
出版社による対象年齢:5歳頃~

発売日:2024年3月
       
定価:1980円

                         
 はじめに


   本作はペルーの山間部に伝わる昔話絵本です。表紙絵に登場するまじない師のような

   魔女「アチケ」は、アンカシュ県に伝わる昔話が源になっているそうです。この恐ろ

   し気な魔女の姿を見ただけで、読者の皆さんは皆、ドキドキワクワクするでしょう。

   本作のあとがきには、再話者宇野和美さんによるこの昔話についての、詳しい解説が

   ありますので、それも大きな魅力と思います。

   

   ところで、本作を迫力ある画風で仕上げた絵本作家飯野和好氏には、多くの受賞作が

   あります。『ちいさなスズナ姫(偕成社刊)』シリーズで赤い鳥さし絵賞を受賞、

   『ねぎぼうずのあさたろうーその1 とうげのまちぶせ(福音館書店刊)』で小学館児

   童出版文化賞、『みずくみに(小峰書店刊)』で日本絵本賞、『ぼくとお山と羊の

   セーター(偕成社)』で、産経児童出版文化賞タイヘイ賞を受けています。

   その他多くの絵本が出版されていますが、日本の神話シリーズ(いずれもパイイン

   ターナショナル出版刊)はユニークで、大人の読者が興味を惹かれる絵本かもしれま

   せん。

   
 あらすじと随想


   昔、両親のいない貧しい女の子と弟の姉弟が二人で暮らしていました。弟が空腹に泣
 
   いても、姉はどうすることもできません。

   そんなある日、二人の前に、じゃがいもの花をくわえた小鳥が飛んできました。ふた

   りは、じゃがいもを求めて、小鳥のあとを追いかけて行きます。
   
   すると、村はずれで、ひとりの老婆が“ごはんをあげるよ”と声をかけ、家の中に二
   
   人を招き入れました。
     
   ところが、その老婆は、子どもを襲うアチケという、恐ろしい魔女だったのです。
   
   アケチが弟にナイフを向けたので、姉は魔女に向かって灰を投げ、弟をおぶって一目
   
   散に逃げました。しかし魔女はしつこく追いかけてきます。

   すると幸いなことに、次々に出会うコンドルやピューマなどが二人をかくまってくれ
                       
   ました。そこでお礼に、姉娘は、これから彼らが飢えることのないようにと、お祈りを

   してあげたのです。

   

   ところが、その後、魔女から逃げきれない窮地に陥ったとき、姉が天に祈ると、空か

   ら綱がおりてきました。すると彼らを追いかけて、魔女もその綱を登って来たのです。

   さて、手に汗にぎる子ども達と魔女との戦い、その結末は、どうなるのでしょうか。

   是非、迫力あふれる飯野氏と宇野さんコラボのこの絵本を、最後までお楽しみくださ

   い。
      
   
   

 随想とまとめ


   深層心理学者C・Gユングによると、グリムの昔話「ヘンゼルとグレーテル」に登場

   する魔女や日本の昔話に登場する山んばなどは、母なるもの「グレートマザー」の元 

   型とも捉えられるようです。グレートマザーとは、母なるものの無意識下のイメージ

   であり、子どもを慈しみ育む善母の部分と、子どもを支配し、自立を阻んで死に至ら

   しめるような、悪母の両義性を持っているようです。

   しかし、昔話の主人公は、グレートマザーとの戦いを経て、自立や自己実現へと向

   かうことも考えられます。そのためには、心の無意識の領域での母殺しが必要となる

   と論じられてきました。
   
    

   私自身の心の中にも、内なる悪しきグレートマザーが存在し、子育てにおいて我が子

   を苦しめたようです。 

   最近、娘と口論になった時、娘から「お母さんは、私が子どもの頃、私の人格を否定

   するようなことを言ったり、好きな習い事の習字を無理にやめさせたりしたじゃな
   
   い!」と批難されました。「エーッ、だって、墨を磨るのが嫌そうだったから」

   と返したものの、書道が好きだったなんて、初めて知ったという、おめでたい母親でし

   た。書道塾が苦痛だったのは、本当は子ども時代の私自身だったのかもしれません。

   七十歳を越えるまで、娘が本音を言えないほど抑圧してきたのかと反省することし

   きりです。一つひとつの場面を思い出すことはできなくても、申し訳なかったと詫
                                                                
   びるしかありませんでした。娘が、悪しきグレートマザーの呪いから解かれ、今から

   でも癒しが得られるように祈るばかりです。 

   

    ところでこの昔話では、女の子が出会った動物のために、飢餓から守られるように

   と、何度も天に祈る場面が登場します。そうした大いなる自然の恵みへの切なる願
 
   いと感謝が、勧善懲悪的な昔話に一層豊かな世界観とぬくもりを加えているように思

   います。

   じゃがいもはアンデス山脈が原産であり、現代でも人々を飢えから救う貴重な栄養源

   になっているそうです。この昔話絵本を通してその由来を知ることができるのも、意

   義深いことではないでしょうか。

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