えほんのいずみ

絵本「きみがいるからおもしろい こんなこいるかな」のあらすじや随想

 この絵本について―1冊で12冊の絵本が楽しめる

作:有賀 忍

出版社:日本図書センター

出版年月日:2023年 2月25日

定価:1,760円 (本体価格1,600円)

 
 はじめに


   この作品は、有賀 忍作『こんなこいるかな』の絵本(元は12巻)の集大成です。

   この一冊があれば、「やだもん」「ぶるる」「たずら」「ぽっけ」「もぐもぐ」「ぽ

   いっと」 「ぴかっと」「がんがん」「まねりん」「なあに」「げらら」「はっぴ」

   の、絵本12冊分すべてが楽しめます。

   宝箱のような絵本が、今年2月に新装出版され、本当にうれしいです。

   「こんなこいるかな」は1986年からNHKテレビの幼児番組「おかあさんといっしょ」

   で放送された人気アニメです。幼児期、リアルタイムでテレビをご覧になった方、お母

   さま、子ども時代にファンだった方も大勢いらっしゃるでしょう。

    その絵本は現在も世代を超えて親しまれています。 子ども時代を思い出させ、心

   を豊かにリフレッシュするからではないでしょうか。

   
 あらすじと随想


   12人の主人公のユーモラスで心あたたまる12冊の絵本集です。      
   

   最初に登場するのは、いやだいやだの「やだもん」。彼のおもしろさは、他の人から

   の誘いや言葉かけに対して、ほとんど「やだもん」と答えるところでしょう。意思を言

   語化できるようになった2歳児の中には、こんな子がいる、いる。でも「やだもん」の
      
   返答にも、例外があって驚きます。

   

   いたずらっこの「たずら」は、小犬の「ぺろ」や、小猫の「みゃー」にいたずらを仕
   
   掛けておもしろがります。しかし彼は、いたずらの前にそれなりの準備をするのです。
   
   時には、予想外の失敗もありますが、だからこそお話におもしろい展開があります。

   

   わすれんぼうの「ぽっけ」を見ていると、何だか今の自分みたいだなと思います。で

   も彼には、別の魅力もあるのです。その個性のバランスに、子どもと人間に対す

   る作者の豊かな洞察力が感じられます。

   

   ちらかしやの「ぽいっと」は、片付けずに遊び続けるので色々と弊害が出てきます。
   
   でも、ちらかすのは子どもの属性でもあるので、「ぽいっと」に共感する子どもたちは

   大勢いるでしょう。しかし教訓的な押し付けのないところが、この絵本の魅力です。

   
   
   さて、がんばりやの「がんがん」は、何でも最後まであきらめずに一生懸命です。

   でも時には、「ぺろ」や「みゃー」に出来ても、「がんがん」に出来ないこともあり
   
   ます。その辺の肩の力の抜け具合や達成感も人気の秘訣でしょう。彼のがんばり

   の源がどこにあるのかということにも、深い意味があります。
   
   

   あと7人の魅力あふれる主人公についても、是非、本作でお楽しみください。

   
   

 随想とまとめ


   ここで、「こんなこいるかな」のアニメ誕生についてご紹介させていただきます。

   有賀さんご自身の講演要約(平成29年度於桜蔭会講演&ワークショップ「伸

   ばそう!二つのソウゾウリョク」)によれば、この作品は、NHKの二歳児テレビ番組研

   究会での 研究成果を踏まえ、アニメとして制作されたそうです。発達心理学の立場

   から、当時のお茶の水女子大学内田伸子先生も参画されていたとのこと。 

   「こんなこいるかな」には教育目標がありました。それは、世の中には色々な人がい

   ること、人にはそれぞれ良さがあること、行動の特徴と同時に心理的な特徴があるこ

   とを子どもたちに理解させるという、3点です。

   制作のうえでは、アニメ一話につき、ひとつのキャラクターのみ登場させるストーリイ

   であることが、求められました。

   有賀さんは、12人の登場人物のキャラクター、つまり個性を際立たせるために試行錯

   誤し、小犬の「ぺろ」と小猫の「みゃー」を誕生させ、ニュートラルな存在として設定

   したそうです。ですから「ぺろ」と「みゃー」は、「こんなこいるかな」の隠れた主役

   でもあるということです。

   

   NHKでのアニメ放送が始まる前に、「いやだいやだのやだもん」や「いたずらっこのた

   ずら」の試作版アニメが制作されました。そして、幼児の反応を観察するテストをお

   こなったところ、結果的に「やだもん」や「たずら」が子どもたちの注視率で圧倒的な

   支持を得たため、スタッフの皆さんも自信をもって、放送を開始したそうです。一話を

   ひとつの個性に絞ったことで幼児が理解しやすく、好まれたのではないかと思われ

   ます。その後、絵本も合計44タイトル次々刊行されました。

   

   有賀さんは、現代の知育偏重主義、成果主義、行き過ぎた商業主義が子どもに及ぼ

   す悪影響を憂慮されています。幼い時代ぐらいは、競争社会に巻き込まれず、大らかな

   気持ちで子どもに寄り添ってあげてほしいと願われています。

   そして、この作品では、比べない、叱らない、成果を求めないという『子どもの精神の

   解放区』の表現を目指したのだそうです。

   「こんなこいるかな」の歌詞にある、「きみがいるからおもしろい」というフレーズこ

   そ、”一人ひとりの子どもが皆、主役”という意味を表しています。

   「すべての子どもにそれぞれ素晴らしいところがある」、それが「こんなこいるかな」

   のエッセンスなのです。

   (参考資料:桜蔭会神奈川支部便り第46号抜粋より)

   

   「こんなこいるかな」のお話には、大人が登場しません。そのことが、まず『子どもの

   精神の解放区』になっているように私は思います。全作品の中で、すべての子が自分

   らしく自由に遊んだり行動したり、お話ししたりしています。大人からの教訓的な教

   えではなく、子どもどうしが気づきを伝え合うというところに、子ども一人ひとりの個

   性を大切に見守る、有賀忍さんの大らかな視点が窺えます。

   本書のあとがきの「作者の言葉」にも、子どもに「あるべき姿」を求めるよりも子ども

   の「あるがままの姿」を長い目で見守っていきたいと書かれています。

   

   有賀さんは、すばらしい画家、絵本作家、教育者でいらっしゃるだけでなく、すべての

   存在への深い優しさをお持ちです。

   今回の集大成の絵本でも、主人公だけでなく細部に渡り、画面に登場するすべての

   もの、どんな小さな虫にさえ愛情がこめられています。

   絵本のページの角は丸くカットされ、ずっしりと厚めの本でも読者の手にまろやかであ

   るよう配慮されています。まさに「読み聞かせにぴったり」の絵本ではないでしょう

   か。

   

      

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