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絵本「たびする木馬」のあらすじや随想

 この絵本について―老いからの、復活と希望に満ちた絵本
                                                                                                                                                               

文と絵:牡丹靖佳
 
出版社:アリス館 
 
出版社の対象とする読者年齢:5歳~ 
  
出版年月日:2022年11 月 4日
 
定価:1760円(本体1600円)
        
                         
 はじめに


   主人公の木馬を通して、人と触れ合う喜びや人の一生についても思いをめぐらすこと

   ができる絵本です。

   現代美術家である作者・牡丹靖佳氏の、繊細で淡い色彩と豊かなイマジネーションの 

   作品は、時間と共に変わりゆくもの、変わらないものについて、大切なメッセージを 

   与えてくれるでしょう。
  
   作者の絵本には他に、『おうさまのおひっこし』(福音館書店刊)『めいわくなボー

   ル』(偕成社刊)などもあります。 

   
   
 あらすじと随想


   遠い国で一頭の木馬が生まれました。

   毎週メリーゴーランドに遊びにやってくる男の子から、「ブラン」という名前をもら
 
   い、木馬はその子を乗せては音楽にのって楽しい時間を過ごしました。

   しかし人気のあったメリーゴーランドも古くなり、隣の国へ売られることになったの

   です。ブランは少年や仲間とも離れ離れになってしまいました。
      
   

   やがてどこの遊園地もさびれたり閉園になり、メリーゴーランドは村から村へ、港

   から港へと旅を重ねる運命に見舞われます。
     
   ブラン自身ペンキがはがれ、体の色もくすみ古くなる一方でしたが、木馬の背中に
   
   乗ってくれた人の笑い声を聞く度に、幸せに包まれました。
 
   
 
   そんなある日、ブランは小さな村で身なりの良い老人に会います。ブランの名づけ親

   だった少年との再会でした。その人の家に引き取られたブランは、彼のそばでゆっく
                       
   りと穏やかな時間を過ごしましたが、10年目に老人も天に召されます。その後はブラ

   ンも広い倉庫の片隅で、今までの思い出を胸に、時を過ごすしかありませんでした。

   ところが、ある日、ブランは思いがけず工房に運ばれてピカピカに磨きあげられ、新
 
   しい未来を与えられることになったのです。

   思いがけないフィナーレに心が和み、明るい希望が得られるでしょう。   
   

   
  

 随想とまとめ


   本書は、時と共に古びてゆくモノや、人の老いについても思いを馳せること

   のできる絵本です。 

   メリーゴーランドと運命を共にするブランの喜びや寂しさにも共感できます。しか 

   し、どのようなことがあっても、木馬の背中に乗る人の喜びを、自分の幸せと感じる 

   主人公の木馬に、ゆるぎない希望が感じられます。 

   

   老いてから名づけ親の少年と再会できたのも喜びと意義あふれる展開でしょう。彼と  

   の永遠の別れがあっても、ブランは擬人化された木馬であるゆえ、工房で復活を果 

   たすのです。それは、この絵本の子ども読者たちにきっと力強い希望と喜びをもたらし 

   てくれるでしょう。

   

   私事ですが、継母が老人ホームに入所しているので時々面会に行きます。長年、病気

   ひとつしたことのなかった頑健な継母にとって、体の痛みや不自由の増えた95歳の老

   いは、「これから自分がどうなっていくのか」という不安をもたらすようです。

   自分の体のおとろえをひた隠しにし、眼鏡や補聴器も使おうとしないので、十分なコ

   ミュニケーションがとれません。聴こえているフリ、見えているフリをするので、こ 

   ちらもそれに気づかないフリをするしかありません。「年寄りから先に死ぬとは限ら 

   ないのよ」と主張してきた強気の継母も、老人ホームで同世代のいろんな人や友だちと

    接するうちに、少し諦めたり悟ったりすることも学んだようです。 

   私は継母と絵本の読み合いができることを願ってきましたが、「絵本のような子ども

   の文化財は、自分にはふさわしくない」という頑な思いが彼女にあるので、今のとこ

   ろはむずかしいようです。絵本の読み解きの深さやおもしろさを共有できないのは、

   残念ですが、人生の終盤で、継母との間に憎しみよりも穏やかな時間が与えられたこ

   を、何よりの幸いと感謝しています。

   
 
   

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