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絵本「せかいいちおいしいスープ」のあらすじや随想

 この絵本について―石のスープはおいしいか?
                                                     

文・絵:マーシャ・ブラウン
 
訳:こみやゆう
 
出版社:岩波書店

おおよその読者年齢:3・4歳~
    
出版年月日:2010年4月21日
 
定価:1760円(本体1600円)
        
                         
 はじめに


   本書のストーリィを知ったのは、大人になってからお話会で素話を聴いたときでし

   た。お話に登場した「石のスープ」が印象的だったのです。どんな味なのだろうか

   と、興味津々。

   ですからこの絵本で、石のスープを何度も味わえるのはとてもうれしいことでした。

   作者マーシャ・ブラウンさんの絵の朱色、黒、白、灰色を基調としたシンプルで陽気

   な画風、登場人物たちの豊かな表情が生き生きとお話をくり広げます。本書はコルデ
   
   コット賞オナー賞受賞作品。

   子どもたちの愛してやまない『三びきのやぎのがらがらどん』(ノルウェーの昔話、

   福音館書店刊)もマーシャ・ブラウンさんの絵本です。

   
 あらすじと随想


   昔、三人の兵隊が見知らぬ村を歩いていました。戦争が終わり、故郷へ帰る途中だっ

   たので、三人共、ひどく疲れて腹ぺこでした。
 
   ところが日々の生活に汲々としていた村人たちは、兵隊に気づき、食べものを全部隠し

   てしまいました。そして彼らが食べものを恵んでほしいと頼みに行くと、「自分たち

   だって三日間も食べていない」「おまえさんたちより前に来た兵隊に上げてしまっ
   
   た」などと嘘をついて、だれもが断わったのです。
   
   

   するとしたたかな兵隊たちは策を練り、「仕方がありません。これから石のスープを

   つくることにします。」と豪語して、大きな鉄鍋が必要だな、と呟いたのです。それ
     
   にたいそう興味をひかれた村人たちは、大鍋を運んできて水を入れ、火にかけまし
   
   た。そのうえ兵隊に頼まれるままに丸くてすべすべした石を運んで来て鍋に入れたの
 
   です。そこで兵隊は、「こんなにいい石ならうまいスープになるにちがいない。も
 
   し、にんじんが入れば、もっと美味しくなるんだがなぁ」「おいしい石のスープには

   キャベツは欠かせない。でも、ないものねだりはやめよう」などと聞こえよがしに呟
                       
   きました。すると、村人たちは兵隊の口車に乗せられ、次々に野菜や肉、大麦と牛乳

   まで運んで来て鍋に入れたのです。

   

   さて、スープが煮えたとき、兵隊たちが「さあ、皆さんにも食べていただきましょ

   う」と言うと、村人たちは大喜びでテーブルを運んできました。
   
   その石のスープはどんな味だったのでしょうか。
   
   ワクワクするにぎやかな大団円は是非絵本で味わってください。

   
  

 随想とまとめ


   この絵本の原題は「Stone soup」。1979年度初版(ペンギン社刊)訳者渡辺茂男氏 

   のあとがきによると、フランスの昔話「奇妙なスープ」が素材になっているそうです。 

   本書でおもしろいのは、村人たちが、スープの美味しさを石のおかげだと最後まで思 

   い込んでいるところでしょう。「いいことを教えてもらった。これからはもう食べも

   のに困ることはない。だって石からスープを作ることを覚えたんだから。」と兵隊た 

   ちに感謝するのです。

   貧しい暮らしの中での村人たちの思い込みは、しあわせを生みだしたことでしょう。 

   しかし大勢が食材を少しずつ提供する寄せ鍋が生まれたのは、兵隊たちの知恵と口の

   うまさのお蔭でもありました。

   トンチは、多くの昔話に登場しますが、兵隊たちの考え出した「石のスープ」は、無

   から有を生み出す知恵そのものでしょう。

   煮ても焼いても食えない石だからこそ皆の関心が高まったのです。やがて村人たちの

   隠した食材が加わって寄せ鍋になり、皆で極上のスープがにぎやかに分かち合えたの

   ですから、ぬくもりいっぱいのハッピーエンドしかありません。
   
   ただ、この絵本では、出版社による読者対象が3・4歳からとなっていますが、兵隊

   と村人という登場人物設定、石のスープにありつくトンチや言葉の巧みさなどを味わ
   
   うには、小学生以上のほうが楽しめるでしょう。

   

   ところで、本書には『オオカミと石のスープ』(アナイス・ヴォ―ジュラード作・絵、
 
   平岡敦・訳、徳間書店刊)『しあわせの石のスープ』(ジョン・J・ミュース・

   さく・え、三木卓・やく、フレーベル館刊、現在絶版)『石ころのスープ ートルコの
      
   おはなしー』(ジュディ・M・リバーマン文、ゼイネップ・オザダラ絵、こだまとも

   こ訳、光村教育図書刊)などの類話絵本があります。

   

   『オオカミと石のスープ』は、フランスの絵本作家アナイス・ヴォ―ジュラードさん

   のとてもユーモラスな絵本。雪の中、動物村にやってきた目つきの悪いオオカミ。暖

   炉で暖まらせてくれたら石のスープを作って上げると言って、めんどりの家に入り込

   みます。すると、めんどりがオオカミに襲われるのではないかと心配した動物たち
  
   ちは、次々に・・・。

   オオカミが悪役だけに、読者の子どもたちも安心するような結末です。

   

    一方『しあわせの石のスープ』の場合、主人公は中国の三人の僧侶です。度重なる戦

   争や災害などで人々の心が疲れきっていたある村を僧侶が訪れます。そして、村人た

   ちの前で石のスープを煮始め、野菜を持ち寄る彼らと分かち合って食べる幸せを示すの

   です。

   本書の「訳者あとがき」によれば、「石のスープ」の民話は、ヨーロッパに原型が

   あり、それぞれの国で少しずつ形を変えながら伝承されたとのことです。 

   
  
    もっとも『石ころのスープ』はトルコのお話。旅人が主人公の愉快な類話絵本です。

   旅人が「けちけち村」の人々に石のスープを煮る場面で、親しみやすいスープの歌が

   繰り返し歌われますので、幼児さんから一緒に楽しめる作品でしょう。

   

   これら「石のスープ」が素材となる絵本では、異邦人によって石のスープが持ち込

   まれ、人々が、食べ物を分かち合って一緒に食べることの温かさや楽しさに目覚め

   ていきます。各絵本の画風が違うように、主人公である異邦人の個性にもトンチ

   にも、違った味があります。

   しかしいずれにしても、奇想天外な石のスープがそれを作り味わう人々の心をつ

   なぐ絵本は、私たちに幸せの在り処を教えてくれるようです。

   

   

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