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絵本「新装版 銀河鉄道の夜」のあらすじや随想

 この絵本について―みんなが誰かを思いやるとき
                                                                 

原作:宮沢賢治

影絵・文:藤城清治

出版社:講談社
    
出版年月日:2022年8月18日

定価:2530円(本体2300円)
           
                         
 はじめに


   本書は藤城清治氏による美しい新装版の影絵絵本です。 

   原作は宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』ですが、最終稿も未完の原稿だったようです。

   今回は2022年新装版影絵絵本を中心にして、原作にも触れながら『銀河鉄道の夜』

   を読んでいきましょう。絵本や童話の形式をとりつつ、生や死、幸いという大きな

   テーマを持った作品です。

   急なテレビ番組の予告ですが、今週9月20日(火)午後6時10分から~7時に

   NHK.BSプレミアムで『宮沢賢治特集「ジョバンニの銀河1983』が放送されるそうで

   す。よろしかったら本投稿と合わせてご視聴なさってみてください。

   
 あらすじと随想


   主人公は思春期前期頃(11~14歳くらい)の少年ジョバンニです。

   父親は北方の遠洋漁業の漁師であり、母親は病気がちで寝たきりでした。そのため

   息子のジョバンニは子どもながらに家計を支え、朝は新聞配達、学校の授業が終わる

   と、活版所でアルバイトをしながら母親を看病する、いわばヤングケアラーだったの
   
   です。
   
   そのせいか学校では授業に集中できないほど眠くなることもあり、ザネリを初めクラ

   スメイトから「もうすぐラッコの毛皮(父親の漁のお土産)が来るってさ」とからか
     
   われたりいじめられたりしました。
   
   しかし、カンパネルラだけは親切で特別な友だちでした。カンパネルラの父とジョバン
   
   ニの父親同士も幼なじみだったため、父子同士仲が良かったのです。

   
                       
   さて銀河のおまつりの日、ジョバンニはまたも級友たちに嫌味を言われましたが、活

   版所の仕事を終え悲しい気持ちで星まつりへ行こうとすると、遠くに軽便列車の汽笛

   が聞こえました。野原の天気輪の丘に「銀河ステーション・・・」という不思議な声

   が響き、気がつくと彼は銀河鉄道の汽車の上でにゴトゴト揺られていたのです。

   うれしいことに列車の座席には、親友カンパネルラが座っていました。

   しかしなぜかいつもより青白い顔をし、白鳥停車場で「お母さんはぼくのことを許して

   くださるだろうか」と謎の言葉を呟きました。

   列車は美しい星空を走り、鷺を捕る鳥とりや色々な人たちを乗せたのです。

   大きな客船に乗っていたという青年一行にも会いました。氷河にぶつかって船が沈没

   し始めたため、救命ボートの席を他の乗客に譲って自分たちは沈みゆく船と運命を共に
  
   したという話を聞いた時、ジョバンニは“ぼくも心を美しくもって、みんなの幸せに

   なるような生き方をしたい”と思いました。カンパネルラも、“人の命を助けるため

   に死ぬのなら幸せだって、みんなもそう思っているんだね。それなら安心した・・”と
       
   言ったのです。
 
   また、みんなのために、空の目じるしになって自分のからだを燃やし続けているさそ
        
   りの星を見た時、ジョバンニは、心の中にいっそう光が射しこんだような気がして

   「ほんとうの幸せって何だろう」と考えます。そしてカンパネルラとどこまでもほん

   とうの幸せを探しにいこうと約束したのです。

   

   しかし、ジョバンニが目を覚ましたのは、さっきの丘の草原でした。彼は疲れて眠って

   しまっていたのです。急いで帰宅する途中、川原を通ったジョバンニは、川に落ちた

   ザネリを助けようとしてカンパネルラが水難事故に遭ったことを知りました。

   助かったのはザネリだけでした。カンパネルラのお父さんは息子を呑み込んだ川

   面をじっと見つめていました。その時ジョバンニは何を考えたでしょうか。

   『銀河鉄道』の結末は是非美しい影絵の絵本でご覧ください。

   
   

 随想とまとめ


   さて、銀河の星まつりは死者の慰霊祭でもあるようです。

   銀河鉄道そのものが、死者の霊を天国で慰めようとする働きがあったのではないで

   しょうか。

   私事ですが、私自身は、25歳で病死した生母が生前ドクターストップにもかかわらず

   産んでくれた子どもでした。叔母の「あなたを産まなければ、お姉ちゃんは助かったか

   もしれない」という言葉に、生母への感謝よりも申し訳なさでいっぱいになったことが

   あります。

   しかし「保育と人形の会」を主宰する高田千鶴子先生から「あなたのお母さんはあな

   たをこの世に送り出すために、命をかけた方なのよ。あなたが生まれなければ、お子

   さんもお孫さんもこの世に誕生することはなかった。それが命のバトンというもので
   
   しょう。 だからお母さんの分まで生きなければなんて責任を感じないで、あなた自身

   が、天から与えられた自らの分を喜んでしあわせに生きたらいい。きっとお母さんも

   それを望んでいらっしゃるでしょう」 と言っていただき、心の平安を得ました。

   

   本書には聖書の「友のために自分の命を捨てること。それ以上に大きな愛はない。

   (ヨハネによる福音書15章13節)」という聖句を思い起こさせる場面がいくつも示 

   されていますが、それだけではなく現実を生きていく主人公ジョバンニを思いやる

   あたたかさもあります。

   具体的にカンパネルラのお父さんがジョバンニを思いやる場面は、原作に描写されて

   います。

   カンパネルラのお父さんは尊いおこないをした息子の死を予感しつつも尚、非常に落ち 
  
   着いた様子で、川原へ来てくれたジョバンニにお礼を言い、“あなたのお父さんは
             
   もう帰っていますか。お父さんからおととい、大変元気な便りが来たから、きっとも 
   
   うすぐ帰ってくるでしょう。明日の放課後、皆さんで家へ遊びに来てくださいね”と 

   ジョバンニに話しかけたのです。 

   我が子の死を前に、穏やかに毅然として人に思いやりを示せるのは、何と大きな愛で 

   しょうか。

   親友を喪ったばかりのジョバンニは、このカンパネルラのお父さんの言葉から、どれ

   ほどの安心と励ましを受けたことでしょう。これからもジョバンニはカンパネルラと 
 
   約束した「ほんとうの幸せ」を考えつつ、学業や仕事をこなし母の世話をし、家族を

   助けて現実を生きていくでしょう。天国へ召されようとしている親友と「銀河鉄道」 

   で過ごした夢時間は、束の間でもかけがえのない旅だったと思います。
  
   

   どのような状況に在っても自分のことだけではなく、ほんのわずかでもだれかを思い 

   やるぬくもりがあるなら、そこに愛があると、私自身この美しい絵本と原作を通して 

   学びました。 
 
   

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