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絵本「空とぶライオン」のあらすじや随想

 この絵本について―頑張りやのライオンが疲れ果てて
          何百年も昼寝をした
                                                                 
  
作・絵:佐野洋子
           
出版社:講談社
                
発売日:1993年10月27日
    
定価:1540円(本体1400円)

          
 はじめに


   この作品は1989年から3年間、小学4年生の教科書に掲載されました。作者は佐野洋

   子さんですが、 絵は長新太氏。その後、文も絵も佐野さんによるこの絵本『空とぶラ

   イオン』が出版されたのです。

   作者の『百万回生きたねこ』と同様、人間や人生の普遍的真理がテーマですので、子ど

   もにとっても大人にとっても読み応えのある作品でしょう。

   大勢の読者に愛されてきた名作です。

   
 あらすじと随想


   主人公は立派なたてがみと勇ましい声を持つ、やさしくて繊細なライオンです。

   彼にはそのたてがみを毎日褒めに来る、親戚のネコたちがいました。

   ライオンは彼らをもてなしごちそうを出したくて、「ウォー」と吠えては毎日獲物

   を獲りに行きました。その勇姿が、まるで空を翔けのぼるように見えたのです。
   
   しかしライオンは本当は昼寝をしたいと思っていました。「ぼくの趣味は昼寝なん
   
   だ」と本音で言っても、ネコたちは冗談だと笑って信じません。
     
   やさしいライオンへの感謝も労いもないネコたちですが、ライオンには彼らの期待を
   
   裏切りたくない気持ちがありました。立派なライオンとして弱みを見せたくない思い
   
   もあったのでしょう。

   ですから夜になるとくたびれ果てて泣きました。
                       
   

   ある日ライオンは、ついに起き上がれなくなります。すると最初にやってきたネコ

   は、ライオンが昼寝をしているのかと思って笑ったのです。しかし笑われてももう空

   へ翔けのぼる元気はなく、そのまま金色の石のライオンになってしまいました。

   ドキッとして胸が詰まる場面です。

   その後、彼は石になったまま何百年も眠り続けるのです。

   ある日、ネコの親子が金色の石のライオンのそばを通りかかりました。

   そして子ネコが「きっと(ライオンは)疲れてたんだ」と言う声で、目を覚ましたので

   す。

   その後ライオンはどうなったでしょう。
  
   以前と同じように、必死でだれかの期待に応えようとしたのでしょうか。

   それは読者の皆さんのご想像にお任せしたいと思います。

   
       
   
             

 随想とまとめ


   どんな時も誰かの期待に応えようとして「頑張らなければ」と思うのは、重荷を負って

   いるのと同じくらい疲れることでしょう。しかし、主人公のライオンが、趣味は昼寝

   だと言っても笑うばかりのネコたちを、「さすが!」とうならせるためには、期待に

   応えるしかなかったのかもしれません。無理をしてでもネコの期待を裏切りたくない

   ライオンの心の中には、ネコたちに嫌われたくない思いもあったのでしょう。

   

   ここで眠りについて考えてみると、ユングの深層心理学で説かれたように、新たな自

   己実現のためには、頑張り(勤労)を補償する、正反対の怠惰や休息や睡眠が必要なよ
   
   うです。日本の民話「三年ねたろう」のように心的エネルギーを「意識」より「無意

   識」に逆行させる時間が必要だったのかもしれません。 

   ライオンが新たな自己実現に向かうためにも、心のエネルギーを「意識」より「無意

   識」から得ることや、睡眠時に夢をみて心のバランスをとることが必要だったのでは

   ないでしょうか。

   そしてライオンを再び目覚めさせたのは、寝ている彼を怠け者だと咎めた大人の言葉

   ではなく、子ネコが石のライオンの疲れを察知し労ってくれた時でした。つまり疲労
  
   から癒やされるために石になって休息するライオンにとって、大切なことが明かされ
          
   れた時です。たとえ誰かの期待に応えられなくても、たとえ昼寝していても、ライオン
 
   はそこにいるだけで価値ある存在だという気づきです。 
 
   ところが子ネコが「わあ、なんて立派なライオン、ねえ、君、シマウマなんか捕
   
   れる?」と言うと、ライオンは子ネコを見て、再び勇壮な姿で空に向かって飛んで

   行くのです。しかし、この最終場面のライオンの表情の何と穏やかでゆとりに満ち

   て美しいことでしょうか。他のどの場面よりも心癒やされます。

   この表情から読み取れるのは、誰かの望みを叶えるのと同じくらい、ライオンがかけ

   がえのない自分を大事にする境地を得たということではないでしょうか。

   ですから彼はこの時、疲れるほど他者の期待に応えようとするのではなく、自分らしく

   チャレンジを楽しみ、喜びを持って新しい自己実現を目指せるようになったのではない

   かと思います。

   是非この絵本の結末を読者の皆さんが、ご自分の想像に合わせて味わっていただけたら
 
   うれしいです。

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