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絵本「あさになったのでまどをあけますよ」のあらすじや随想

 この絵本について―いつものように朝を迎えられる幸せ
                                                                 
         
作・ 絵:荒井良二
       
出版社:偕成社

出版社の対象とする読者年齢:3歳~
                
発売日:2011 年 12月
    
定価:1430 円(本体1300円)

          
 はじめに


   本書は、東日本大震災のあった年、山形県出身の作者荒井良二さんが、被災地の方々
   
   とのワークショップに取り組むために、東北地方沿岸部の町を訪ねる旅を繰り返し、
   
   熱い思いをこめて描き上げた、画集のように美しい絵本です。
      
   2012年日本子どもの本研究会選定図書、産経児童出版文化賞・大賞ほか受賞。
   
   年齢を超えて味わえる作品と思いますが、特に大人の読者の皆さんにとって、深い

   メッセージが届く絵本でしょう。

   

   作者の主な作品には『たいようオルガン』『バスにのって』『スースーとネルネ

   ル』『きょうというひ』『はっぴぃさん』『えほんのこども』『モケモケ』『うちゅう

   たまご』ほか、心にしみる絵本が数多くあります。

   

 あらすじと随想


   本書は、表紙のように、どの場面も荒井さんの自筆と絵が溶け合い、作者ならではの

   温かさをかもし出しています。

   またタイトルのような口語文が、読者に親しみのこもった語りかけ、問いかけをしてい
      
   るので、絵本と対話ができ、うれしくなります。
      
   美しい朝のどの風景も、心を明るくしてくれるでしょう。
        
   
     
   「あさになったので まどをあけますよ」
      
   男の子が柔らかな模様のカーテンを開くと、深い山並みが見えます。
   
   “山はやっぱりそこにいて 木はやっぱりここにいる だから ぼくは ここが好き”
    
   窓から見えるのは、いつもの山や木、そして川の向こうの美しい村や人々の暮らしで
 
   す。
   
   

   「あさになったので まどをあけますよ」
  
   女の子がカーテンを開けると、窓から見えるのは、林立するビルや電車の風景。
   
   “街はやっぱりにぎやかで みんな やっぱり急いでる だから わたしは ここが

   好き”
     
   
      
   こうして、「あさになったので まどをあけますよ」と誰かが窓を開ける度に、その人
      
   の好きないつもの朝の景色が広がるのです。
         
   “海はやっぱりそこにいて 空はやっぱり そこにある だから ぼくは ここが好
          
   き”
     
   油絵による、何気ない朝の風景とは 思えないほど、広々とした空も青い海も穏やか
   
   で美しく、輝いています。いつも、こうであったらいいなという願いがこめられた、

   絵なのかもしれません。元気のない時でも、きっと元気がもらえるでしょう。

   
                     

 随想とまとめ


   理不尽な自然の猛威!

   大地震や津波は、すべての日常をあっという間になぎ倒し、いつもの景色を呑み込ん

   でしまいます。被災地の方々の辛さには届かないけれど、万分の一の思いを寄せて、

   この絵本を読むと、荒井さんの描かれた美しい朝は、どの場面も涙が出るほどズシ
  
   ンと胸に響きます。
               
   山も木も海もただ「在る」のではなく、特別ないのちを持ってそこに「居る」ので
      
   す。
      
   この絵本で繰り返されるのは、「いつも」「やっぱり」「好き」という、「日常」の喜
      
   びを再確認する前向きな言葉。
                        
   被災者の方々が日常を取り戻すために、荒井さんは何か自分にできることがあればと

   探していた時、まず「朝、起きたらカーテンをあけること」に気づき、この作品の着

   想が生まれたそうです。 
    
   
    
   最近、尊敬する方の傘寿のお祝いに本書をプレゼントしたら、「この絵本を読んで、
   
   一日として同じ朝はないことを感じ、新たに前を向いて歩んでいきたいと思いまし
 
   た」という感想を頂きました。

   日常は何気ないことの繰り返しが多いけれど、その有難さは、失いかけた時に初めて 
 
   わかると言われたのです。

   
   
   今夏、私の家族がコロナウイルス肺炎にかかって、パルスオキシメーターが80を切 

   り、ようやく入院先の病院が見つかって救急搬送されたのも、朝でした。前の晩は搬 

   送先が見つからず酸素吸入だけだったのです。生きるか死ぬかの瀬戸際で、緊張感と

   心細さを共に支えてくださったのが、救急隊員の方たちでした。 

   「窓を開けましょう!」と言われました。それは換気のためですが、清々しい言葉で

   した。

   窓を開けるというのは、風の通い路を開き、新しい視点で観るということ。つまり当た
 
   り前だった日常が当たり前ではなく、有り難くなるということかもしれません。 

   お蔭さまで、家族も今は元気になりました。 
 
   「朝になったので、窓を開けますよ」と言って、清々しい冬の空気を取り入れていま 
                        
   す。 

   

   この絵本は作者・荒井良二さんの祈りかもしれません。いつも何気なく迎え、何気なく

   過ごしやすい朝のすばらしさに改めて感謝し、幸多かれと願う特別な祈りでしょう。 

   『夜は、夜もすがら泣き悲しんでも、朝と共に、喜びが来る』(詩篇30章4節-5節) 

   という聖句を思い起こします。

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