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絵本「わたしはあかねこ」のあらすじや随想

 この絵本について―自分の持ち味を大切に生きたねこ
                                                                 
         
作:サトシン
       
絵:西村繁雄

出版社:文渓堂
                
発売日:2011 年 8月
    
定価:1430 円(本体1300円)

          
 はじめに


   本書は、『うんこ!』というユーモラスな絵本で幼児さん達の心を鷲づかみにした、
   
   サトシンさん・西村繁雄さんコンビの作品です。
   
   主人公たちの前向きなことはどちらの絵本にも共通しているでしょうが、『わたしは
      
   あかねこ』は、ヤングアダルト以上の皆さんの方がメッセージが深く伝わるかもしれ
   
   ません。

   自分らしさを発揮したあかねこの魅力は、絵でも輝いています。

   

 あらすじと随想


   白ねこ母さんと黒ねこ父さんに、子ねこが生まれました。

   白ねこ、黒ねこ、とらねこ、ぶちねこ、そして赤い毛並のあかねこの5匹。

   本書の主人公は、父さんにも母さんにもきょうだいにも似ていない表紙のあかねこで
      
   す。何とすてきな赤い毛並、そしてまなざしでしょう。
      
   あかねこの「わたし」は、自分の色がきれいで可愛いことをとても気に入っていま
        
   した。
     
   “皆と同じなんてつまんない”と思っていたのです。
      
   ところが、両親は“どうしてあの子だけ色が違うのだろう”と、心配しました。
   
   そして、ミルクをたくさん飲ませて白くしようとしたり、あかねこを変えようと余念
    
   がありませんでした。
    
   でもあかねこは、赤いままの自分が好きだったのです。

   そこで、ある夜、皆が寝た後にこっそりと家を飛び出しました。
  
   村を出て、いろんな町でありのまま自分らしく暮らしたのです。
   
   時には家族を思い出して涙したこともありましたが、誰かに苛められることはありま

   せんでした。
     
   家を出て一番良かったのは、ある町で「君の赤い毛並、とってもきれいだね」
      
   と言ってくれる青ねこくんと出会えたことだったのです。
      
   幸せに思い、その日から、青い毛並のきれいな青ねこくんと暮らすことになりまし
     
   た。
      
   やがて生まれた子ねこは、赤ねこ、青ねこ、その他、カラフルな5匹。
   
   虹色のすてきな家族になりました。

   しかし、ある日、あかねこは青ねこくんや7匹の子ねこと一緒に・・・。

   絵本の本文の中ではわからない結末が、裏表紙で読みとれるのも、本書のすてきな展
   
   開です。

   
                     

 随想とまとめ


   一緒にこの絵本を読んだ5歳のA子ちゃんは、主人公が自分の赤い毛並を気に入って

   いるのに、親に矯正されようとしたりきょうだいと遊べない疎外感を、苛められてい

   ると思って「かわいそう」と気の毒がりました。
  
   自分らしさや持ち味は天から賜ったギフトでもあるでしょう。
               
   ですから、あかねこの如く、それを家族が矯正しようとするのは筋違いとしかいえな
      
   い気がします。
      
   
      
   ところで最近、生命科学者の故・村上和雄氏の遺稿『コロナの暗号―人間はどこまで生
                        
   存可能か?』(幻冬舎刊)を読ませて頂きました。

   そこには、心身の病を負った人が、「こころの免疫力」を働かせ、自身の中で眠ってい

   るよい遺伝子をONにすることによって劇的な寛解にいたった例が挙げられています。

   たとえば末期癌を患って苦しい治療を受ける40代の女性が、『生命の暗号』(村上和
    
   雄著、サンマーク出版刊)を読んで、「人間のDNAのうち、実際に働いているのは全 
    
   体のわずか5%程度で、まだオフになっている遺伝子が多い」ことを知り、人間とし
   
   て生まれ生かされている奇跡中の奇跡も嬉しくなりました。そして「まだ眠っている
 
   遺伝子のスイッチをONにできたら元気になれるかもしれない」と考え、自分を支

   えてくれるすべての細胞の中の遺伝子一つひとつ、そして最後には癌細胞にさえ「今
 
   まで私の細胞でいてくれてありがとう」と感謝できた時、治療の辛苦から解放され、

   癌細胞も消えたという奇跡を体験された例が書かれています。
  
   また不登校の子どもたちとの触れ合いの中から、著者は、彼らが、OFFになっていた遺

   伝子を、学校以外の場所でこそONにできる子どもたちだと気づかされます。そして別
 
   の環境で元気になれたというのは、子どもたちがそこで本来の自分を取り戻せたとい

   うことだとも書かれています。

   
 
   本来の自分とは、この絵本の主人公あかねこが大切に守りたかった自分らしさなのでは

   ないでしょうか。

   自分が自分として生まれてきたこと、それは唯一無二の奇跡的なチャンスです。

   そして人は皆、一人ひとり他の人とは違う遺伝子を持っているのです。

   ですから、あかねこのように本来の自分を大切に生きたくて、当然でしょう。

   家族は人間関係の中で最も距離が近いですが、親も子も、自分らしく自分の人生を生

   きたいと望んでいます。特に子どもの青年期はそれがはっきりしてくるでしょう。 

   ですからお互いをだいじにするにはどうしたら良いかを考える必要が生じると思いま

   す。

   この絵本は幼児さんから楽しめますが、自分探しや自己実現の課題を持つ読者の皆さん

   の期待にも応えてくれる、味わい深い作品ではないでしょうか。

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