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絵本「さんねん峠」のあらすじや随想

 この絵本について―昔話から知恵をもらう

朝鮮のむかしばなし

作:李錦玉(リ・クムオギ)

絵:朴民宜(パク・ミニ)

出版社:岩崎書店
              
初版発行日:1981年2月10日

定価:1430円(本体1300円)

 
 はじめに


   本書は韓国・朝鮮の昔話だそうですが、長年、日本の小学校の教科書の教材だったの

   で、懐かしさを覚える読者の皆さんも多いのではないでしょうか。

   作者の李錦玉さんは大阪生まれ。日本語で数多くの韓国・朝鮮の昔話を再話し、画家

   の朴民宜さんも童話や昔話の挿し絵画家として活躍しています。

   
 あらすじと随想


   あるところに、「さんねん峠」という、なだらかな坂がありました。

   季節ごとに美しい花が咲き、人々を楽しませてきましたが、“さんねん峠で転ぶでな

   い。さんねん峠で転んだならば、三年きりしか生きられぬ。”という迷信のような言

   い伝えがありました。

   そこで人々は、この峠では転ばないように気をつけました。

   ところが、ある秋の日のこと、一人のおじいさんがこの峠を通って隣村へ出かけ、夕

   暮れ時に石につまずいて転んでしまったのです。

   そこで、あわてて家へ飛んで帰り「ああ、どうしよう。わしの寿命はあと三年じゃ

   あ」とおばあさんにしがみついて泣きました。


   

   その日から病の床につき、おばあさんの看病にもかかわらず、病気は重くなるばか
 
   り。

   ところが、ある日、水車屋の若者がお見舞いに来て、さんねん峠というのは、転べば

   転ぶほど寿命が延びるところだと説いたので、おじいさんはさんねん峠へ行きまし

   た。

   すると、木蔭から“一ぺん転べば三年で、十ぺん転べば三十年、百ぺん転べば三百

   年、・・・長生きするとは、こりゃ めでたい”と愉快な歌が聞こえてきたのです。

   そこでおじいさんの心は軽くなり、ころころころりんと麓まで転がって行きまし


   た。その後のおじいさんはどうなったでしょうか。是非絵本で楽しんでご覧ください。


   
       
 随想とまとめ


   人は生きている限り、死への恐れから解かれるのは難しいのかもしれません。

   ですから余命告知に対しても不安になりやすいのでしょう。

   私事になりますが、私自身も脳腫瘍を通して、余命とつきあう機会がありました。

   三十年以上前のこと、良性の脳腫瘍を町の耳鼻科で見つけて頂き、あわてて脳外科で

   手術を受けました。それで完治したと楽観していましたら、今度は舌ガンの手術前の

   検査で、脳腫瘍の再発がわかったのです。

   そこで、舌ガンの手術が終わってから放射線治療を受けました。しかし私の脳腫瘍

   には放射線が合わなかったらしく、逆に腫瘍が膨れ上がって激しい頭痛と声帯異常に

   見舞われました。

   いつ布団の中で冷たくなっても不思議ではないと宣告され、急きょ手術を受けたので

   す。

   その後も、MRI検査では予断を許さない状況ですが、感謝なことに日常生活のQOLが守

   られています。

   ですから私にとっては、今生かされているという事実が、何よりありがたいです。

   
   でも、先月、思いがけずコロナウイルスに感染してしまいました。しかし、脳腫瘍

   という疾患があっても、発熱と咳だけの風邪のような軽症で、短期間のうちに快復し

   ました。ですから免疫力が今も与えられていることが嬉しく、神さまと多くの方のお


   祈りに心から感謝しました。



   この絵本を読むと、迷信とはいえ、余命に対する不安からおじいさんが気を病んでし

   まう心境がよくわかります。

   と同時に、周りの人々の心のこもったお見舞いや心遣いの優しさ、不安を打破するた

   めに用いられた、愉快で前向きなとんち話的処方から元気がもらえるのではないで

   しょうか。

   絵の方も、画家朴さんのあたたかな筆づかいや色彩、季節ごとの自然の美しさに心が

   和みます。



   ところで話は変わりますが、先日「三年峠と三年坂――朝鮮・日本そして京都」(吉

   本裕美著、中河督裕著、佛教大学総合研究所紀要別冊所収)という論文を読む機会が

   あり、京都を初め、日本各地に「三年坂」伝説があることを知りました。

   この絵本同様に、三年坂で転ぶと余命三年という迷信があるので、それを打破するた

   めに、坂の名称を再念坂や産寧坂などと変えたり、様々な工夫が成されたようです。

   また、三年目は危ないけれど、二年までなら生きられるのだから大丈夫という、合理


   的発想で打破するタイプの伝説もあるようでした。

   
    一方、和歌山城下の伝説は、元和年間(江戸時代)に出来た新道「三年坂」にまつわ

   る話(神坂次郎著『紀州史散策 第五集』所収、1982年)。

   商家の御隠居・久左衛門が三年坂で転んで気の病を負い、「さんねん峠」と酷似した

   とんち話で迷信を打破してもらうのです。

   国境を超える昔話の類話には、ユング心理学の普遍的無意識説があてはまるのかもし

   れませんが、国や時代が違っても共通のユーモラスな知恵で気の病を打破するこの昔

   話には、絶妙な謎が潜んでいるように思えてワクワクします。


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