えほんのいずみ

絵本「サラダでげんき」のあらすじや随想

 この絵本について―コロナ禍に癒しのサラダを味わう

作:かどのえいこ

絵:長新太

出版社:福音館書店

出版社の対象とする読者年齢:読んであげるなら3歳~               自分で読むなら小学校低学年~

発売日:2005年3月10日(「こどものとも」での初版は1981年1月)

定価:990円(本体900円)

 
 はじめに


   本書は『魔女の宅急便』の作者・角野栄子さんと、『キャベツくん』の作者・長新太

   さんコンビの、スケールの大きなあたたかい絵本です。小学校の国語の教科書にも掲

   載されてきましたので、子どもの頃から何度も音読したり、劇などの形で発表した

   り、いろんな親しみ方で読者の皆さんは楽しんでこられたのではないでしょうか。

   私も我が家の子どもたちが幼い頃、一緒に繰り返し読んで、最終場面で「やったー

   !」と歓声を上げたのを思い出します。

   
   
 あらすじと随想


   主人公のりっちゃんは、おかあさんが病気なので、おかあさんがたちまち元気になる

   ようなことをしてあげたいと思いました。そこで、色々考え、おいしいサラダを作っ

   てあげることにしたのです。

   きゅうりもキャベツもトマトも切って大きなお皿にのせました。すると、ねこがや

   ってきて、“かつおぶしを入れると元気になりますよ”といいました。りっちゃんは、

   “教えてくれて、ありがとう“と、早速実行します。そんなふうに、犬も、すずめ

   も、ありも・・・最後にアフリカゾウまで飛行機に乗って現われ、次々にアドバイス

   をくれたのです。りっちゃんは、”ありがとう“と全部のアイデアを生かして、おか

   あさんにサラダを作ってあげました。

   さあ、すばらしく元気の出るフィナーレは、是非絵本を手にとってごらんください。

   おかあさんが元気になるためなら、どんなアドバイスも「ありがとう」と受け入れる

   りっちゃんの熱くて優しい想いが伝わってきます。

   
   
 随想とまとめ


   本書は私にとって、最近、コロナウイルスに感染し自宅療養していた時期、「きっ

   と、すぐに良くなるよ。ファイト!」と元気づけてくれた絵本でした。


   

   このコロナ禍にあって思うのは、細菌にしろウイルスにしろ、感染症というのは人か

   ら人へ移るので、特殊な意味を持っているように思います。


   

   以前、中野京子著『怖い絵』の中で、ドイツ・ルネッサンスの画家、グリューネヴァ

   ルトの作品「イーゼンハイム祭壇画」という絵について読んだことがありました。こ

   の絵は現在、鳴門の大塚国際美術館にも陶板で色彩も忠実に再現された原寸大のレプ

   リカがあるようですが、原画はかつてフランスのストラスブール近郊、イーゼンハイ

   ムの聖アントニウス修道院にあったものだそうです。そこには、麦角菌中毒の患者さ

   んを治療する施設がありました。

   かつて中世ヨーロッパには「聖アントニウスの火」といわれる病があったそうです。

   これは麦角菌汚染したライ麦パンを食べたことによる麦角菌中毒が原因だと、後に判

   明したのですが、それが発見されるまでは、伝染病だと思われ、多くの患者さんが病

   状や差別に苦しみました。

   そして「イーゼンハイム祭壇画」をめざして巡礼の旅に出たのです。

   この絵の中で、「病に冒された磔刑のキリスト像」のむごい傷が、ちょうど麦角菌に

   冒された自らの症状と似通っているのを見て、巡礼者が心癒されたといわれます。

   あの絵を見れば伝染病が癒されるという信仰があったのでしょう。そればかりでな

   く、患者である巡礼者が住まいを離れることによって、食生活が変わり、それまで冒

   されていたライ麦パンの麦角菌中毒が消え、現実の病も治癒したそうなのです。

   それは、なんと幸いだったことでしょう。


   

   現在、コロナウイルスに感染した患者さん、あるいは医療従事者の方やご家族が、い

   われのない差別を受けることがあるとも聞きます。それは、周囲の人が持つ感染への

   不安と恐れからなのでしょうが、現時点では、「聖アントニウスの火」の流行った往

   時と同様に、医学の進歩がまだコロナウイルス感染治療に追いつかず、すべての真実

   もまだわからないのですから、偏見や差別はお門違いでしょう。

   そのように考えると、戦後、精神科医神谷美恵子さんがハンセン病医療に尽力された

   ことが、どれほど深い愛を伴ったミッションであったかと頭を垂れないではいられま

   せん。

   そのミッションの源には、神谷さんご自身が二十代で肺結核を患い、感染病のつらさ

   や深い孤独感を体験して余りある愛がおありだったことも、一因かもしれないと想像

   します。


    

   ところで話を『サラダでげんき』に戻しますと、本書の作者・角野栄子さんは、5歳

   の時にお母さんを病気で亡くされました。

   角野さんご自身がこの絵本の主人公のように、お母さんにサラダを作ってあげ、お母

   さんを元気にしてあげたかったという熱い想いが、創作に込められているのではない

   かと思うことがよくあります。

   私も、25歳で病死した生母に「りっちゃんサラダ」を届けてあげたいなと思いまし

   た。

   本書は、読者をやさしく温かい気持ちにしてくれる絵本です。


   
   

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